壁ドンされたまま反射的に返事をしてしまった。
…たった今言われた言葉を頭で変換する。
一瞬何を言われたかわからなかった。
"アズマノコトガスキナンダ"
…東のことが好きなんだ…?進藤が私を…?
そっと進藤の顔を見上げると、苦しそうに、切なそうに顔を歪めながら私を見つめている。

視界は進藤で覆われているので見えないが、静かな足音を響かせて部長がこちらに向かってくる気配がする。

「…進藤、何をしている?」

「…いえ、別に」

そう言うと同時に私から離れる。クリアになった視界に飛び込んできたのは、部長の怒りを宿した瞳。

「東に頼みたい仕事がある。一緒に来てくれ」

そう言われて手を引かれる。思いの外強い力にびっくりする。

「…東!」

後ろから進藤の声がしたが、「…もうすぐミーティングを始めるから進藤も早く来い」

進藤に背を向けたままそれだけ言うと、部長は私を引っ張るようにして先に資料室を出た。
一言も喋らず私を引っ張ったままどんどん歩いて行く。

「…ぶ、部長!手を…」

離して下さい、という言葉は飲み込んだ。
なぜなら、唐突にくるっと振り返った部長の怒りと悲しみを含んだような瞳に見つめられて何も言えなくなったから。