「…っはぁぁぁ、ほんと可愛すぎて堪んない…」
東、俺のこと殺す気?そう言ってぎゅうっと部長の手に力が入る。

急に部長の香りに包まれてドキドキしながら、「ぶ、部長、麦茶が…」とだけ何とか言うと、ん、と少しだけ離れて麦茶のコップを私から取り上げソファーテーブルに置く。

「…東、ここは会社じゃない。しかも今日は休みだ。俺を役職で呼ぶな」

じっ、と見つめられながら部長にそんなことを言われる。熱のこもった瞳。

「…でも、部長は部長ですし…」

「名前で呼んで」

「ぶ、部長…」

どこまでも真剣な眼差しに捕らわれて逃げられない。心臓の音がうるさい…

「名前で呼ばないと、今日はもう返事しない」

ちょっと拗ねたように言う。8歳も年上のはずなのに、たまに子供っぽい所がある人だ…

「…ひ、広岡さん…」

「そっちじゃない」

「…そ、蒼介…さん…」

意を決してそう呼んでみる。恥ずかし過ぎて泣きそう…
するとハッとした顔をして、部長の手が頬に伸びてくる。何かに耐えているような切なそうな色を瞳に宿して、部長、いや、もとい蒼介さんの顔が静かに近づいて来た。

そこへピンポーン!とインターホンが鳴る。姉が来たのだろう。

はっとして部長から離れ、慌ててモニターを確認しに行く。

昨日から部長のスキンシップが激しい…
でもそれが嫌じゃないのは何でなんだろう。
抱きしめられるのも、キスされるのも、全然嫌じゃない。今も、姉が来なかったらそのまま流される所だった。私はすっかり部長に絆(ほだ)されている…