片手で花を持ち、もう片方の手でなんとか家の鍵を開ける。私の親は遅くまで仕事をしているので、私が帰るまで家はずっと留守なのだ。

鞄を下ろして、一旦花をテーブルの上に横たえる。
コップに水をくんで花を挿した。

「これでいい?」
そう聞くと、花はバチッとウインクした。
ほんと顔が良いよな、お前は…
…ん?お前?そういえば名前決めてなかったな。
「名前、何にしようか」
なんでもいいよ、とでも言いたげな様子で、花は片眉をピクっと上げた。

ここまででなんとなく察したが、この花は喋らない。
喋らなくて、顔が日本人離れしてて…そうだ!

「お前は今日から“ムクチーニ”だ!!」

案の定、シーンと静まり返る室内。
言ってからジワジワと恥ずかしくなってきたリホは、“ムクチーニ”の表情すら確認しないまま自分の部屋へ逃げ込んだ。