──暗い暗い洞窟の奥へ進むと、そこには真っ白な壁が行く手を塞いでいた。

 足音も、呼吸も、胸の鼓動も、まばたく睫毛の音さえも聞こえぬ中、白亜の壁に手を伸ばす。
 ぬめりを帯びたそれが土で出来たものではなく、明らかな生物の温もりを孕んでいることに気付けば、ぞわりと全身が粟立った。
 悲鳴を漏らしていたかもしれない。しかし喉を震わせたのは掠れた吐息のみ。
 泣き出しそうな恐怖に駆られて後ずさったのなら、白い壁がおもむろに動き出す。
 ゆっくりと視界を流れていくウロコの継ぎ目。息を殺してソレが消えるのを待ったが、とうとう願いは叶わなかった。

 ──毒々しい艷めきを纏う赤い双眸が、こちらを見ている。

 巨大な蛇は獲物を見つけるなり口を開け、怯える娘を丸呑みにしたのだった。

「おいで、ヘルガ。私の元に」