光華の塔は対称的な構造をしており、三つの居住塔の北には大きな城郭が東西に伸びる。弑神の霊木が所狭しに植えられた内郭の中央に、愛し子を匿う北塔は堂々と聳え立つ。
 松明でぽつぽつと照らされた暗い螺旋階段を上り切ると、エドウィンの前に両開きの扉が現れた。冷えた鉄の握りを掴み、ゆっくりと押し開く。

「……これは……」

 次の扉へ続く短い廊下。その天井や壁には見事な紋様が刻まれ、人や精霊とおぼしきものが描かれていた。
 数多の精霊を引き連れて歩く賢者アイヤラが、雪山から人里へ向かう様が絵本のように流れていく。
 次第にアイヤラの持つ松明の火が小さくなり、エルヴァスティの極夜が訪れる。
 周囲から精霊が消え、暗闇に包まれた賢者は篝火の前に腰を下ろし、静かな祈りを捧げた。
 ──壁画が終わると同時に、エドウィンは廊下の端に到着する。目の前に迫った扉は微かに開かれ、隙間から暖かな空気が漏れ出していた。
 ここがリアのいる部屋だろうか。扉を大きめにノックしてみると、少ししてから物音が聞こえてくる。しかしそのまま待っていても返事は来ず、エドウィンはそっと扉を押し開いた。

「リア、います……か……」

 彼の視界に飛び込んできたのは、一面の星空だった。
 砕けた宝石が思い思いに輝きを放ち、七彩の極光が紺藍の空を鮮やかに色づかせる。まるで巨大な絵画のようだが、ゆったりと形を変えゆく光の大河が、偽物ではなく現実の空であることを彼に知らしめた。
 そして──その下で星光を一身に浴びるのは、今の今まで眠りに就いていたであろう黒髪の娘。
 瞼を擦りながら起き上がった彼女は、黄金にも見える双眸をこちらに寄越す。

「あ……エドウィン、ごめんなさい。いつの間にか寝てたわ」

 彼女が掠れた声で笑ってくれたとき、ようやくエドウィンは呼吸を思い出した。