「……寂しいな……」

気持ちを言葉にすると、視界が滲む。
まだ蕾のままの桜を見ることもなく、私たちはここを旅立たなければならない。

それって、寂しくない?

「……三笠さん?」

急に呼ばれた名前に振り向くと、後ろには山河くんがいた。
滲んだ涙を拭って、私は笑顔を見せる。
そんな私には何も言わず、山河くんはただ一言だけ「静かな場所」と呟いた。

「ここ、こういう風になってたなんて知らなかった」
「秘密基地みたいでしょ?4月になれば、桜が満開になって、桜吹雪が綺麗なの。花びらが頭に付くのは、少し困るけどね」

……まあ、もうここで頭に付いた桜を見て笑い合うことなんてないのだろうけど。

「ここの桜大きいから、綺麗なんだろうな。三笠さんはここ、好き?」
「うん、大好き。卒業しちゃえば、来ることはないかもしれないけど」
「来ればいいのに。隣の桜ヶ丘中学の人なら入れますよね?」
「……まあ、ね」

さも当たり前のように言う彼に、私は曖昧な返事しかできなかった。
たしかに、ここに来ること自体はできる。
だけど、ここには中学生の居場所なんてない。