私は毎日のようにハインツと会った。もちろん、ソフィアとして。あの事件から彼は更に優しくなったと思う。どんなに会っても彼は私の正体には気づかない。うっかりソフィアが知らないことを話しても全く気づかなかった。
ヴィンセントなんて、一瞬で気づいたのに。ハインツが鈍感なのか、ヴィンセントが野性的なのか分からない。ハインツは今後のために一度、狼と生活したらいいと思う。
「新しく屋敷を買おうと思っているんだ」
「お屋敷を? なぜ?」
ハインツは、ソフィアの髪に指を絡めながら嬉しそうに微笑んだ。指で愛おしそうに遊んでいるけれど、ただのカツラ。全てが偽物だと気づかないことに哀れみすら感じるわ。
「ソフィアの住む屋敷だよ。そこなら、ソフィアを害する人間は入って来られない」
彼が愛しているのは、籠の中に入る可愛い小鳥。守ってあげなくてはいけないひ弱な存在だ。
「でも……お屋敷なんてそんなお金、私たちには一生かけても払えないわ」
「金の心配なんてしなくていいんだ。うちには余るほどあるんだから」
お金に困っている人が聞いたら発狂しそうな言葉だわ。でも、ハインツは真剣そのもの。お金で解決する方法しから知らないのかしら。
「ソフィアを守りたいんだ」
守りたい、か。普通、女の子はそんな風に言われたらキュンと来ちゃうのかしら。私はふつふつと怒りしか湧かない。誰から守るって、あなたの婚約者からでしょう? つまりそれって、私のことでしょう?
「今日は君に新しいドレスを作ってもらったんだ。今度着てほしい」
そう言って、彼はソフィアの前に大きな箱を置く。新しいドレスだ。そして、次々とプレゼントを積み上げていった。
「嬉しい。ありがとうございます」
贈り物は一つか二つにしてほしいわ。箱を一つ一つ開けて感想を言うこっちの身にもなって考えてくれないかしら。語彙力がないから「わーきれーい」と「すごーい」ばかりになってしまう。
これだけ贈り物をもらった上に、新しい屋敷。気分は傾国の美女。彼が王子なら、歴史に残る悪女になれたのではないかしら。
「そうだ。今度の王宮の舞踏会、ハインツ様は参加されるんですよね? 王宮の舞踏会ってどんな感じなんですか?」
「普通の夜会が大きくなったようなものだよ」
「そうなんですか。良いな……。あたしも行ってみたい。きっとキラキラしているのでしょうね」
王宮の舞踏会に下級貴族は呼ばれない。ソフィアが行けるようになるには、上級貴族と結婚するか、養子縁組してもらう他ない。今のソフィアにはどだい無理な話なのは承知の上でかまをかけてみた。
「……楽しいことなんてないさ。また酷い目に遭うかもしれない」
そう簡単に「婚約破棄して結婚しよう」とはいかないわよね。本当にしぶとい男だわ。本当に舞踏会まで引っ張られるとは思わなかった。
「でも、王宮なのだから、美味しい料理があるんでしょう?」
「それなら、我が家のシェフだって一流だよ」
「でも、あたしが連れて行ってもらえるのは別のお屋敷だもの。連れて行ってほしいわけじゃないの。憧れるのは自由でしょう?」
「ああ……そうだね。」「王宮でダンスをするハインツ様はキラキラしているのでしょうね。見られないのが残念。終わったら、どんなお料理があったか教えてくださいね」
笑顔でお願いすれば、ハインツはぎこちない笑顔で頷いた。
久しぶりにハインツとの約束がない日、私はお母様からお茶に誘われた。わざわざお茶に誘うなんてことはそうそうない。大抵はふらっと現れて言いたいことを言ったら消えていく。それが常だから。
つまり、立ち話では足りない長いお小言があるという証拠である。
「オリアーヌ、最近王女殿下のもとに通いすぎよ」
第一声から説教が始まったわ。でも、致し方ない。ハインツのために毎日とは言わないけれど、毎日のように出かけている。そして、その理由の半分くらいはジュエラの名前を借りているのだから。
「次の夜会のドレスの相談をしているの。いいでしょう?」
「幼馴染みで親友でも、相手は王女なのよ。わきまえたほうがいいわ」
お母様の言葉はごもっとも。素直に「はい」と答えながら紅茶を口に含む。「わきまえなさい」と言われてわきまえられるようなタイミングではないから、口だけだ。舞踏会が終わったらおとなしくしているから今だけ許して。
反省の色なしと思ったのか、お母様は大きなため息を吐き出す。
「そういえば、王太子殿下とも会っているそうね」
その言葉に飲んでいた紅茶を吹き出しかけた。
「ヴィンセントとは会っていないわ」
「よく二人で話している姿を見かけると他の方から聞いたわ?」
「それは……多分、たまたま廊下で会ったときに話すから」
「あの広い王宮でそう何度もたまたまがあってたまるもんですか」
そうよね。わかります。私もお母様の意見に賛成! なんだけど……。なぜか彼とはたまたま出会う確率が高いのよ。
「いい? 殿下にもご結婚の話が来ているのよ。変な噂で迷惑をかけてはいけないわ」
ヴィンセントなんて、一瞬で気づいたのに。ハインツが鈍感なのか、ヴィンセントが野性的なのか分からない。ハインツは今後のために一度、狼と生活したらいいと思う。
「新しく屋敷を買おうと思っているんだ」
「お屋敷を? なぜ?」
ハインツは、ソフィアの髪に指を絡めながら嬉しそうに微笑んだ。指で愛おしそうに遊んでいるけれど、ただのカツラ。全てが偽物だと気づかないことに哀れみすら感じるわ。
「ソフィアの住む屋敷だよ。そこなら、ソフィアを害する人間は入って来られない」
彼が愛しているのは、籠の中に入る可愛い小鳥。守ってあげなくてはいけないひ弱な存在だ。
「でも……お屋敷なんてそんなお金、私たちには一生かけても払えないわ」
「金の心配なんてしなくていいんだ。うちには余るほどあるんだから」
お金に困っている人が聞いたら発狂しそうな言葉だわ。でも、ハインツは真剣そのもの。お金で解決する方法しから知らないのかしら。
「ソフィアを守りたいんだ」
守りたい、か。普通、女の子はそんな風に言われたらキュンと来ちゃうのかしら。私はふつふつと怒りしか湧かない。誰から守るって、あなたの婚約者からでしょう? つまりそれって、私のことでしょう?
「今日は君に新しいドレスを作ってもらったんだ。今度着てほしい」
そう言って、彼はソフィアの前に大きな箱を置く。新しいドレスだ。そして、次々とプレゼントを積み上げていった。
「嬉しい。ありがとうございます」
贈り物は一つか二つにしてほしいわ。箱を一つ一つ開けて感想を言うこっちの身にもなって考えてくれないかしら。語彙力がないから「わーきれーい」と「すごーい」ばかりになってしまう。
これだけ贈り物をもらった上に、新しい屋敷。気分は傾国の美女。彼が王子なら、歴史に残る悪女になれたのではないかしら。
「そうだ。今度の王宮の舞踏会、ハインツ様は参加されるんですよね? 王宮の舞踏会ってどんな感じなんですか?」
「普通の夜会が大きくなったようなものだよ」
「そうなんですか。良いな……。あたしも行ってみたい。きっとキラキラしているのでしょうね」
王宮の舞踏会に下級貴族は呼ばれない。ソフィアが行けるようになるには、上級貴族と結婚するか、養子縁組してもらう他ない。今のソフィアにはどだい無理な話なのは承知の上でかまをかけてみた。
「……楽しいことなんてないさ。また酷い目に遭うかもしれない」
そう簡単に「婚約破棄して結婚しよう」とはいかないわよね。本当にしぶとい男だわ。本当に舞踏会まで引っ張られるとは思わなかった。
「でも、王宮なのだから、美味しい料理があるんでしょう?」
「それなら、我が家のシェフだって一流だよ」
「でも、あたしが連れて行ってもらえるのは別のお屋敷だもの。連れて行ってほしいわけじゃないの。憧れるのは自由でしょう?」
「ああ……そうだね。」「王宮でダンスをするハインツ様はキラキラしているのでしょうね。見られないのが残念。終わったら、どんなお料理があったか教えてくださいね」
笑顔でお願いすれば、ハインツはぎこちない笑顔で頷いた。
久しぶりにハインツとの約束がない日、私はお母様からお茶に誘われた。わざわざお茶に誘うなんてことはそうそうない。大抵はふらっと現れて言いたいことを言ったら消えていく。それが常だから。
つまり、立ち話では足りない長いお小言があるという証拠である。
「オリアーヌ、最近王女殿下のもとに通いすぎよ」
第一声から説教が始まったわ。でも、致し方ない。ハインツのために毎日とは言わないけれど、毎日のように出かけている。そして、その理由の半分くらいはジュエラの名前を借りているのだから。
「次の夜会のドレスの相談をしているの。いいでしょう?」
「幼馴染みで親友でも、相手は王女なのよ。わきまえたほうがいいわ」
お母様の言葉はごもっとも。素直に「はい」と答えながら紅茶を口に含む。「わきまえなさい」と言われてわきまえられるようなタイミングではないから、口だけだ。舞踏会が終わったらおとなしくしているから今だけ許して。
反省の色なしと思ったのか、お母様は大きなため息を吐き出す。
「そういえば、王太子殿下とも会っているそうね」
その言葉に飲んでいた紅茶を吹き出しかけた。
「ヴィンセントとは会っていないわ」
「よく二人で話している姿を見かけると他の方から聞いたわ?」
「それは……多分、たまたま廊下で会ったときに話すから」
「あの広い王宮でそう何度もたまたまがあってたまるもんですか」
そうよね。わかります。私もお母様の意見に賛成! なんだけど……。なぜか彼とはたまたま出会う確率が高いのよ。
「いい? 殿下にもご結婚の話が来ているのよ。変な噂で迷惑をかけてはいけないわ」