ニーナはあたしの姿を見て、なんとも言えない表情を浮かべた。
「お嬢様、本当にその姿で参加されるのですか?」
「ええ、どうかしら?」
「そうですね……。なんというか、独創的といいますか」
「いいのよ。気を使わずに思ったことを率直に言って」
「よろしいのですか?」
「もちろん。どう? 今日のソフィアはひと味違うかしら?」
今日はハインツとの夜会の日だ。彼は言葉の通り、次の日にソフィア宛てに手紙をよこした。約束から五日後。それがハインツの選んだ夜会である。
少なくとも十日以上は準備の時間があると思ったから焦ったわ。夜会には準備が必要だもの。オリアーヌとしての生活を真面目に行いながら、ソフィアの準備をしなければならない。元々屋敷に引きこもりがちだったから、毎日出かければ怪しまれてしまう。
外に出る口実を作るために何度ジュエラのもとを訪れたか。嫌な顔せず付き合ってくれるジュエラには感謝しないといけない。
私は五日で準備した姿を鏡で確認する。うーん。完璧。
ソフィアの顔からはチャームポイントであるそばかすは消えている。化粧品を贅沢に使ったおかげだ。色を乗せすぎて原型が分からないほどだ。
ドレスは中古の中でも一番目立つものを選んだ。きっと夜会では注目の的だろう。
「本当にこのかっこうで行かれるのですか?」
「ええ、ソフィアにとって最後の夜会になるわ。そして、こんなセンスのない子をつれて歩いているハインツの評判もがた落ちよ」
「ハインツ様へのささやかな仕返しのためですか……。それならば仕方ありませんね」
「少しくらい痛い目にあってもらわないと気が済まないの」
ハインツは立っているだけでも目立つ。その上、仮装パーティーのほうが似合う女が横にいたら注目の的になることは間違いない。
恥ずかしい思いをすればいいのよ。私は意気揚々と出かけたのだ。
しかし、ハインツはあたしの手を取って、幸せそうに微笑む。今までの脳天気な私なら、『天使の微笑み』と絶賛したことだろう。
アパルトマンの前に横付けされた馬車から出て来たのは、誰もが振り返るような王子様だ。ほら、通りすがりの女の子が恋に落ちた。それくらい顔の良い男なのだ。
彼はあたしのかっこうには言及しない。心の中では運命が間違いだったと気づいていたりするのだろうか。それとも唖然として何も言えない?
彼が何も言わないことをいいことに、あたしは何食わぬ顔で馬車に乗り込むのだ。
「今日は前と雰囲気が違うね」
「そうかしら? エスコートなんて初めてしてもらうから頑張っておしゃれしたの」
にっこり。もちろん彼もにっこり。内に含まれた意味など気づかないふりをするのよ。きっと今頃後悔していることでしょう。夜会などに誘ったのだろうと。
頭を抱えるがいいわ! 今の私は魔王よりも極悪非道なんだから。
「今日は夜会の前に寄りたい場所があるんだ。付き合ってもらってもいいかな?」
「ええ、もちろんよ」
このかっこうでよろしければ好きなだけお付き合いしますわ。私の返事に 彼は優しく微笑んだ。
その三十分後、笑顔で頷いた自分自身を殴ってやりたくなった。
「お嬢様、本当にその姿で参加されるのですか?」
「ええ、どうかしら?」
「そうですね……。なんというか、独創的といいますか」
「いいのよ。気を使わずに思ったことを率直に言って」
「よろしいのですか?」
「もちろん。どう? 今日のソフィアはひと味違うかしら?」
今日はハインツとの夜会の日だ。彼は言葉の通り、次の日にソフィア宛てに手紙をよこした。約束から五日後。それがハインツの選んだ夜会である。
少なくとも十日以上は準備の時間があると思ったから焦ったわ。夜会には準備が必要だもの。オリアーヌとしての生活を真面目に行いながら、ソフィアの準備をしなければならない。元々屋敷に引きこもりがちだったから、毎日出かければ怪しまれてしまう。
外に出る口実を作るために何度ジュエラのもとを訪れたか。嫌な顔せず付き合ってくれるジュエラには感謝しないといけない。
私は五日で準備した姿を鏡で確認する。うーん。完璧。
ソフィアの顔からはチャームポイントであるそばかすは消えている。化粧品を贅沢に使ったおかげだ。色を乗せすぎて原型が分からないほどだ。
ドレスは中古の中でも一番目立つものを選んだ。きっと夜会では注目の的だろう。
「本当にこのかっこうで行かれるのですか?」
「ええ、ソフィアにとって最後の夜会になるわ。そして、こんなセンスのない子をつれて歩いているハインツの評判もがた落ちよ」
「ハインツ様へのささやかな仕返しのためですか……。それならば仕方ありませんね」
「少しくらい痛い目にあってもらわないと気が済まないの」
ハインツは立っているだけでも目立つ。その上、仮装パーティーのほうが似合う女が横にいたら注目の的になることは間違いない。
恥ずかしい思いをすればいいのよ。私は意気揚々と出かけたのだ。
しかし、ハインツはあたしの手を取って、幸せそうに微笑む。今までの脳天気な私なら、『天使の微笑み』と絶賛したことだろう。
アパルトマンの前に横付けされた馬車から出て来たのは、誰もが振り返るような王子様だ。ほら、通りすがりの女の子が恋に落ちた。それくらい顔の良い男なのだ。
彼はあたしのかっこうには言及しない。心の中では運命が間違いだったと気づいていたりするのだろうか。それとも唖然として何も言えない?
彼が何も言わないことをいいことに、あたしは何食わぬ顔で馬車に乗り込むのだ。
「今日は前と雰囲気が違うね」
「そうかしら? エスコートなんて初めてしてもらうから頑張っておしゃれしたの」
にっこり。もちろん彼もにっこり。内に含まれた意味など気づかないふりをするのよ。きっと今頃後悔していることでしょう。夜会などに誘ったのだろうと。
頭を抱えるがいいわ! 今の私は魔王よりも極悪非道なんだから。
「今日は夜会の前に寄りたい場所があるんだ。付き合ってもらってもいいかな?」
「ええ、もちろんよ」
このかっこうでよろしければ好きなだけお付き合いしますわ。私の返事に 彼は優しく微笑んだ。
その三十分後、笑顔で頷いた自分自身を殴ってやりたくなった。