「忘れられるかよ!」

俺の焦った声に薫はびくりと体を震わせた。

「そう……だよね……気持ち悪くて忘れられないよね……」

「そうじゃない!」

「ずっと私のこと笑ってたんでしょ?」

「何言ってんだよ……」

「蒼くんはずっと私に付きまとわれて困ってたんだよね。恥ずかしくて、私のこと友達だってサークルの子に言ってたのを聞いた」

言葉を失う。俺の話を聞かずにどんどん傷ついていく薫を見るのが辛い。傷つけているのは俺なのに。

「薫、話を聞いて」

「一度も好きだって言ってくれなかったね」

「え……」

「気づかないふりしてたけど、もう無理……」

無理と言った薫の顔が歪む。その顔を見ると俺まで泣きそうになる。

薫のことを好きだと言葉にしてこなかった。嘘の告白だったから『付き合いたい』とだけ言って誤魔化してきたし、薫を好きだと自覚した後も照れて言えなかった。後ろめたさもあった。

「頼むから俺の話を聞いて」

それでも首を左右に振る薫は俺を拒絶していた。
耳を塞いでいるわけじゃない。それでも俺が何を言っても薫には届かないんだと分かってしまった。

「キスもノーカウントってことで」

「ノーカウント……?」

「そう……なかったことにしよう。今までの会話とか、遊んだこととか。綺麗に忘れるから」

低い声でそう言った薫は笑った。目を潤ませて無理に口の端を上げる。その痛々しい顔を見て俺は無性に腹が立った。

「ふざけんな!!」

思わず怒鳴ってしまった。肩を震わせた薫は俺から一歩離れ、その目からはついに涙が零れ落ちる。それでも俺は声を更に荒らげた。

「なかったことにすんじゃねーよ!!」

もうすぐ2年だった。俺と付き合ってきたこの2年をなかったことにしないでくれ。

「ごめっ……ごめんなさい…」

薫はボロボロと涙をこぼす。周りの学生が集まってきた。