せっかく昨日は良い夢を見たのに、実に感に障る猫だと思った。

 文官試験が今の私には程遠い夢であることは自分が一番承知している。

 人が気にしていることをヅケヅケと。

 最初の頃は、まるで借りてきた猫の様に可愛い奴にも思えたのだけれど。

 まあ、まさに猫をかぶっていたのね。

「まあ待て。学生さんに良い私塾を教えてやろう。」

「良い私塾?」

「ああそうさ。町外れの、ほれ、私が水遊びをしていた川があるだろ。」

 水遊びじゃなくて溺れてたんでしょ、と言おうとしたが止めた。

 猫の戯言とは言え、正直その私塾は少し気になったからだ。

「その川沿いに上流の方へ少しばかり歩くと、橋が架かっておるのが見える。通行料は高いが、その橋を渡れば、小さな町に着くのだ。そこのまた町外れに古寺があるのさ。」

 竹丸は黄色く澄んだ瞳をこちらに向けていた。