この前の新月の夜だったか。

 町外れの堀川で溺れかけていた1匹の黒猫を助けてから、非常に妙な事になっていた。

 その猫は名を「柏木」と言い、ブルブルと震える姿を哀れに思った私は、魚屋の主人に頼み込んで、店の看板猫として雇ってもらったのだけれど・・・

 柏木が看板猫になってからというもの、一月も経たないうちに、閑古鳥が鳴いていた店は町一番の魚屋になり、そのおこぼれで、お隣の餅屋も随分と繁盛していた。

 それからというもの、店の前を通る度に主人は私にペコペコと頭を下げ、それを避けようと路地裏を通るたびに柏木は話しかけてきた。

 人の言葉を話すというだけでも珍しいが、どうもこの猫はお喋りが達者で、どこか気に食わなかった。