「どうしてアナタがここにいるの。」
私は今にも声を上げそうになったが、気丈に振る舞うことにした。
柏木はヒョイと地面に飛び降り、私の脚の匂いを草履の隙間から嗅いでいる。
「なんだお前、まだ通行料を全て払ってないではないか。さては迷って違う橋を通ったな。」
一体全体この猫は何を言っているのか。私には訳が分からなかった。
「付いておいで学生さん。私が奴から騙し取られた通行料を取り返そう。」
そう言って柏木は通りの真ん中を偉そうに進んで行った。
取り乱した私であったが、ともかく彼に付いて行けば古寺への道が分かると思い、そのいけすかない足取りを追う。
少し行って黒橋の方へ戻ると、橋の前にはやはり、あの大男が立ち塞いでいる。
柏木はその門番と何かを話し出し、しばらくすると大男は私が支払った通行料を全て小さな風呂敷に包んで返してくれた。
「さあ学生さん、橋へ行こうか。」