「あなたが手を引くなら私がこの子をいただくわ。もともと稀有なる血を一滴もらうつもりだったけれど、」

「怖くないのかっ」
叫んだ男に、
「怖くはないわ。私は神を崇めない。この世には神様なんていないんだから」
「お前・・・」

この女の中には闇がある。
私なんかには理解できないくらい深い暗闇が。
このまま女に連れていかれれば、私は魔に染まってしまう。
それは、嫌だ。

動けない私。
固まってしまった男。
ただ金色の瞳を持つ女だけがうれしそうに微笑んでいる。

「ちょっとごめんなさいね」

女が袂からナイフを取り出し、私の右腕にあてがうとスーッと引いた。
きれいな線を引くようにつけられた跡。
不思議なことに痛みは感じない。
でも、

「ああぁ」
男が声を上げる。

私の腕から一筋の赤い流れが指先に流れ落ちる。

「やっぱり、キレイな血」

床に落ちる寸前のところで女が指ですくい、灯されていたろうそくの炎に落とす。

シュッ。

ジュッ。

パチパチ。

ボッ。

いくつもの音を立て、最後は炎の塊を作り燃えて消えた。

「すごいわ」
女が歓喜の声を上げる。

自分の体から魂だけが抜け出し部屋の天井から見下ろしていた私は、人ごとのような気分でいた。