***side石見


稲早を送って行き、木戸をくぐり入っていく姿を見て後悔の念に襲われた。

もちろん、白蓮に罪はない。
あいつも気の毒な子だ。
しかし、だからと言って、そのことが稲早を窮地に追いやっていい理由にはならない。
俺はなんて罪深いことをしたんだと、やっと気づいた。
尊との約束があるから今は見守ることしかできないとわかっているが、何もできないことがもどかしい。


「どうだ?」

通りの向こうの物陰で米問屋を見張っていると、尊に声をかけられた。

「まだ動きはない」
「そうか」
なぜか首をかしげる尊。

「何か気になるのか?」

「いや」
考え込んで、尊は眉間にしわを寄せた。

どことなくつかみどころのない男。
それが尊を表現するのにピッタリの言葉。
立ち居振る舞いや言葉の端々から煮気味出る威厳。
それは高貴な生まれ故のもの。

「お前はいったいどこの皇子様なんだ?」
かまをかけるつもりで聞いてみた。

どうせ正直には答えないだろうから、直球なくらいがちょうどいいだろう。