通されたのは20畳はありそうな和室。

部屋に入ってきた廊下側の壁は一面の障子張りで、縁側からの月明かりが差し込んでいる。
部屋の中には大きな飾り棚があり、ガラスの食器や螺鈿の細工が並んでいる。
きっと、どれ一つとっても私には手の出ない高級品だろう。
ぼんやりと揺れるろうそくの炎を見ながら自分が夢の中にいる気になっていた。

温かく優しいオレンジの光。
そしてどこからか香るお香の匂い。

ダメ。
この香りは・・・危険。
そう思ったときには、体が動かなかった。

深山では秘薬や毒薬についても勉強する。
その中でも、身をもって体験するようにと何度か嗅いだ眠り香。
それと同じ香りが部屋の中を漂っている。

眠ってはダメ。
目を開けなくては・・・

しかし、充満していく眠り香にあらがうことはできない。

ゆっくりと目を閉じ、座っていた体が床へと崩れ落ちる。
私は自分の意識を手放してしまった。