「なるほど、分かったわ」

尊の話を聞き、少し気持ちが落ち着いた。
これから何が起きるかわからない不安は消えた。
心配はあるけれど、尊を信じてみようとも思えた。

「安心しろ。何があっても稲早のことは俺が守る」
「うん」

前にも思ったけれど、尊の言葉には不思議な説得力がある。
尊が「大丈夫だ」と言えば本当に大丈夫だって気になってしまう。

「で、具体的には?」
冷静な宇龍の突っ込み。

「まず、相手の指示通り今夜10時に男の家に出向く」

「私が行くのよね?」

「ああ。町で顔とか身に着けるおしろいを買ってきたから風呂に入ったら支度をしてくれ」
「うん」

「男の家は住居兼店舗になっていて、店舗の二階には従業員たちも住んでいるが、渡り廊下でつながった住居には男が一人で住んでいる。10時に裏木戸を三度ノックしろって指示らしい」
「へー」

そこからは私一人ってわけね。

「稲早、本当に大丈夫か?」
「う、うん」

ここまで来て逃げ出すことはできない。
やれるところまで、やるしかないんだ。

「今ならまだ,引き返せます」
私を見て話す宇龍の目が笑っていない。

もし私が望むなら、宇龍は今すぐここから連れ出してくれるだろう。
でも、白蓮の境遇を知ってしまった私にそれはできない。