「そう、なのね」

戻ってきた尊は今日一日調べてきた話をかいつまんで聞かせてくれた。

白蓮を差し出せと言っているのは町の名刺で米問屋主人。
巷では善人で通っていて悪評はない。
50過ぎのくせに結婚はしておらず、女好きだとの噂もない。

「目的は何かしら?」
話を聞いていた八雲が口にした。

「わからない。ただ、死相は感じなかった」
「し、死相?」
思わず声が上ずった。

「死相は、死期が近いときにのみ現れるものじゃない。その人が人を殺めたり、食らったときにも乗り移るものだ」

人を食らうって・・・
出かかった言葉を必死に飲み込んだ。

「それは人じゃなくて、鬼だな」
吐き捨てるように言う石見。

「ああ。でも、あの男は鬼でも魔物でもない」

「じゃあ、何なのよ」
八雲が語気を強める。

確かに、お金を積んで女の子を買おうっていうのは真っ当な大人の所業ではない。
それも、随分と陰湿な罠まで張って。

「落ち着け。俺だってあいつがまともだって言うつもりはない。もちろん悪人だと思う。ただ、白蓮を食うために企んだことではなさそうだって」

「ああああぁー」
突然、お母さんの叫び声が部屋中に響いた。