宇龍も八雲も決して納得したわけではない。
不満はあるだろうし、文句も言いたいんだと思う。
けれど、私の行動が白蓮を思っての事なのは理解してくれた上で、不本意だけれど今は白蓮を助けることが優先だとわかってくれた。

「あれ、お客さん?」
学校から戻ってきた志学。

宇龍も八雲も挨拶をすることなく、ペコリと頭だけ下げる。
何とも微妙な空気が流れた。

もう少しすれば夕暮れ。
このままでは尊と八雲たちが鉢合わせしてしまう。
できればこれ以上、誰も巻き込みたくはない。
困ったなぁと考えを巡らせていると、

「ただいま」
お父さんが帰ってきた。

「さぁ、お赤飯の準備ができましたよ」
この場に不釣り合いな位明るいお母さんの声。

もちろん無理して明るくしているのはわかっている。
もしかしたら今夜限りで実の娘と会えなくなってしまうのだから。

「さあ、石見たちは遅くなりそうだから先にいただきましょう」
当たり前のように私の前にもお赤飯が並んだ。

深山にいれば温かい料理を食べることは珍しいから、手のひらでお椀を包み込みそのぬくもりを感じる。
なぜだろう、涙が溢れそうになった。