「怒りましたか?」
「いいえ」

こんなところで本性を現すつもりなんてない。
それに、

「あなたが言うように、尊が中央の政権に近い人物であるなら稲早の失踪にもかかわっているかもしれないじゃない」

「そうですね。でも、彼は決して何も言いません」

確かに、そうかもしれない。

「じゃあ、どうするの?」
何の手掛かりもないのに。

「八雲様は一緒にいた青年を覚えていますか?」
「ええ」

旅装束の尊とは違い、普段着姿の若者。
中の国の民にしては血色のいい、彫の深い顔立ちだった。

「着ているものから見て、中の国の住人でおそらく農業をしている者でしょう」

「農民?」

「ええ。それに顔立ちは中の国の民とは少し違いますから、近年こちらに移り住んだ者です」

なるほど。
瞬時にそんなことまで考えていたなんて、すごい。

「町の東に広がる農村地帯の一角に、移住者たちが多く住む村があります。まずはそこへ向かってみましょう」

再び歩き始めた宇龍。
今更反抗する気もなくなり、私もそれに続いた。