「八雲様は、この雲居を治めているのがどなたかお分かりですか?」

「何よ、初等科の授業でも始める気?」

「いいえ、本気で伺っております」
いたって真面目な顔をする宇龍。

本当にむかつく。

「この雲居を治めるのは大巫女様。大巫女様をお助けするために私たちがいるんでしょ」

深山に入る前から何度も聞かされた話。
物心ついた時からずっと言われ続けてきた。

「そうです。しかし、雲居の外では少し事情が違うのです」

あぁー、聞いたことがある。

「他国では国の長がすべての政を行います。象徴の対象である大巫女様とは違い、その権力も富もすべて1か所に集中するのです」

「ふーん」

「そして、国を治める長はその血縁者が継承していきます」

「じゃあ、尊は」

「おそらく、かなり中央政権に近い血を引いた方だと思います」
やけにはっきりと言う宇龍。

なんで、宇龍はそんなことがわかるんだろう。
尊との面識なんてないはずなのに。

「こう見えても神官の家系でしてね。人には見えないものが時々見えるんです」

人には見えないもの。
その言葉を聞いて、私の足が止まった。