「ねえ、一体どこに行くつもりなのよ」

尊と別れてから、宇龍は東の方へと向かって歩き出した。
東といえば・・・のどかな田園が広がる田舎。
誘拐事件とかかわるような場所とは思えない。

「どうせ、八雲様にも稲早様を探すあてはないのでしょう?」

それは、そうだけれど。

「だからこそ、尊が怪しいと思うんじゃない」

もう少ししつこく聞けば、何か聞き出せたかもしれない。
さすがに尊が犯人とは思わないけれど、きっと何かを知っているはず。
今回の件にはきっと尊がかかわっている。

「無駄ですよ」

え?

吐き捨てるように言われた言葉に驚き、私は宇龍を見上げた。
その眼差しは、先ほどまでよりも鋭いように見える。

「八雲様にはわかりませんか?」

「何、が?」

「あの方は、高貴なる血を引くお方です」

「えっと、あの・・・それは・・・」

「深山に使える神子であれば、多少は感じたのではありませんか?あの方は一介の旅人ではないと」

「そりゃあまあ」

只者でないのはわかっていたけれど・・・

「宇龍は、尊の素性を知っているの?」

中の国の家臣。それもかなりの重鎮である宇龍なら私の知らないことを知っていても不思議ではない。

「詳細はわかりません。ただ、姿かたちや醸し出す空気はあの方が治める者だと感じさせました」

「治めるもの?」

「そうです」

あまりよく理解できなくて小首をかしげた私に、宇龍は歩みを止めた。