***side八雲


「もうっ、離しなさいよっ」
大きく腕を振って、宇龍の手を放そうとする。

けれど、見かけより力のある宇龍はビクともしない。
大体、直属の家臣でないとはいえ身分の違いはあるはずなのに、神子である私に乱暴するってどういう了見だろうか。

「手を離さないなら、大声を出すわよ」
グッと足を踏ん張って、睨みつけた。

「どうぞ、お困りになるのはそちらです」

う、ううぅっ。
悔しくて、奥歯をかみしめる。

「こんな往来で立ち止まっていては人目に付きますよ」
さらにからかうような声。

「わかっているわよ」

今騒ぎを起こせば、困るのは私のほう。
神子の私が深山を抜け出したことが知れれば大騒ぎになる。
もちろん、いつかは発覚すると覚悟はしている。
その責めも、きちんと受けるつもりだ。
でも、それは今じゃない。
まずは稲早を見つけ出して救出するのが最優先なんだから。

「とにかく参りましょう」
少しだけ腕をつかむ力を緩めた宇龍。

私もこれ以上の抵抗は無駄と諦め、再び歩き出した。