「え、あぁ」
珍しく狼狽した。

俺の腕をつかむのは昨夜会った少女。
稲早の友達で、確か八雲という名前だった。
漆黒を思わせる髪はまっすぐに伸び、透き通るような肌と黒く大きな瞳。
その神秘的ないでたちはまさに雲居の民そのもの。
そして、滲み出る気品のようなものが高貴な身分だと思わせる。

「あなた、稲早をどこに隠したの?」
つかんだ腕は話さないまま、俺の目を見る八雲。

その視線はどんな噓をも見抜いてしまいそうなほど強く、まだ本当に汚いものなど見たことのないようで淀みがない。

「稲早はどこにいるの?」

なかなか答えない俺にしびれを切らし、八雲がいら立ちを見せる。

「知らないよ。昨日の晩別れたじゃないか」

嘘をつくのは苦手じゃない。
簡単に本心を見せるものではないと、教えられて育ってきたから。

「本当にご存じないのですか?」

いきなり八雲の後ろから現れた男。
仲間というよりも家臣のように、八雲の後ろに控えている。

「ああ、知らない。稲早に何かあったのか?」
俺がそういった瞬間、石見の体がビクンと震えた。

「ご存じないのでしたら結構です。八雲様、参りましょう」

男は詳細を話すことはせず、八雲の腕を引いた。
八雲は不満そうな声を上げたが、男が強引に連れて行ってしまった。


「稲早を探しているんだな」
「ああ、友達だからな」
きっと心配なんだろう。

「・・・すまない」
うなだれる石見。

「バカ。悪いと思うなら、白蓮も稲早もみんなが救われる策を考えろ」
今はそれしかないんだ。