「へえー、大きな米問屋だな」

白蓮を買おうっていう鬼畜野郎の店の前まで来て、無意識に口にした。
その店は町で一番の米問屋。
店も大きく、多くの人が働いているのが見える。

「ここは中の国でも5本の指に入る豪商だ。主も人格者で町の代表として深山にも米を収めている」

「ふーん」

じゃあ、白蓮を狙うのは裏の顔ってわけだ。
人にはみな表と裏がある。
それは、俺だって同じ。
しかし、それが人に危害を加えるとなれば話は別だ。

「出てきたぞ、あいつだ」
物陰に体を隠しながら、石見が指をさす。

「へえー」

店から数人の男に囲まれて出た来たのは恰幅のいい50代に見える男性。
着ているもののからして、彼がこの店の主だろう。
穏やかな表情で、行き交う人に挨拶している。

「いい人に・・・見えるな?」
「ああ」

白蓮を目にして状況を聞かされた今だから理解できるが、知らない人間から見ればあの男はいい人に見える。
とてもじゃないが、悪人には見えない。

「本当に、あいつなのか?」

「ああ」
石見は男から目を離すことなくうなずいた。