「止めて、離して!」

抵抗する人か・・げ?
え?
「八雲」

そこには不満そうに俺たちを睨む八雲がいた。

「離して。離しなさい!」
それでも宇龍は捕まえた腕を放そうとはしない。

その時、数人の男が暗闇から現れた。
無言で宇龍を囲むと、剣を向ける。

「八雲、お前」
思わず非難めいた声を上げてしまった。

「何よ。夜中に1人で出かけるのに陰を連れて行くのは当然でしょっ」
普段おしとやかさは全くない、わがままお嬢様が頬を膨らませる。

陰・・・中央の方では忍びと言うらしい。
その家に仕え、主人を守る者。
普段は使用人のように働いているが、いざというときは主人に同行し陰から護衛する。
もちろん俺にもいるが、目立つからと連れてこなかった。

「もういいわ」
八雲の声で、剣を降ろす陰たち。
宇龍も八雲の腕を放した。

「今何時だと思っているんですか。女の子が・・・なんて無茶なことを・・」
宇龍の呆れた顔。

「それはあなたたちも一緒でしょう?」
「しかし・・・」
「私の心配は無用よ。1人でも探すから」
そう言うと八雲は歩き出した。

忘れていた。
八雲は、ある意味稲早より過激な子だって事を。
普段おとなしい分、キレると誰も止められない。
いくら正論を言っても、「嫌なものは嫌なの」と感情論で押し切られてしまうんだ。

「お待ちください」
八雲の腕をとって止める宇龍。
何よと、八雲が宇龍を睨み付ける。

「どんな危険な目に遭うかも分からないのですよ?怪我でもしたらどうするんですか」
「危険だから、稲早を早く助けなくてはならないんでしょう?」
当然のことだと言わんばかりに、八雲は引かない。

しばらくの睨み合いの後、
「分かりました。共にまいりましょう」
宇龍は諦めたように八雲の腕を放した。

完全に、宇龍の負け。
深山の女神子様はひとすじなわではいかないんだ。