山ノ國の館から本殿脇の宿舎に戻された俺は、真っ暗な部屋に灯ったランプの明かりを頼りに外出の支度をはじめた。
できるだけ動きやすい服を選び、目立たないように少し着崩してみる。
あまり小綺麗な格好では、逆に目立ってしまうから。

まずは、尊と別れたあの店に行ってみよう。
稲早がいなくなった場所からも近いし、

「失礼します」
前触れもなく障子が開いた。

入ってきたのは宇龍。

「はあー」
外出姿の俺を見てため息をついた。

この姿を見れば、俺が何をしようとしているかは分かるはず。
しかし、彼は止めなかった。

「私は稲早様を探しに行きます」
「俺も行く」
反射的に言った俺に、

「深山に戻れなくなるかもしれませんよ」
悲しそうな眼差しを向ける。

「大丈夫、覚悟はできている」
俺は、行くと決めたんだ。

我慢して良い皇子を装うことはやめた。
おとなしく従順フリも、何も知らない子供のフリもたくさんだ。
もう、自分を偽ることはしない。
俺と宇龍は一緒に町へ向かうことにした。