その時、
俺は襟首を捕まれた。

えええ?
つまずいて転びそうになる俺の横で、八雲も歩を止めた。

恐る恐る、後ろを振り返る。


「あ、ああ、・・・」
驚きすぎて言葉が出ない。

一番会いたくない人がそこにいた。

鬼のような形相の朝倉神官が、俺たちを睨んでいた。

「何をしているんですか!」
行き交う人が振り返るような声で、怒鳴られた。

反応できずに固まっている俺たちに、
「帰りますよ」
抑揚のない声で告げる。

「待ってください。稲早がいなくなったんです」
八雲が詰め寄る。

「こちらで探します。あなたたちは帰りなさい」

「嫌です。稲早が見つかるまでは帰りません」
俺は叫んでいた。

次の瞬間、
パンッ
朝倉神官が俺の頬を叩いた。

「いい加減にしなさい。まずは自分の行動を反省しなさい」
凍り付くような視線を向ける。

俺は何も言えなかった。

深山で生きることは運命。
始めは自分の意思ではなかったけれど、今は望んでここにいる。
深山の神子であることに誇りを持っている。
それなのに・・・
今日の俺たちの行動は後悔以外の何物でもない。

ヒュー。
朝倉神官が合図をし、現れた男たちによって俺と八雲は担ぎ上げられた。

「降ろしてください。自分で歩きます。逃げたりしませんから」
暴れ、叫んでみたが、
「今の君たちは信用できません」
冷たく言われた。

結局、俺と八雲は担がれたまま深山に連れ戻された。