「……水上くん、だよね?」

「うん。改めまして、水上晴だよ。よろしくね、結城かれんさん」

「こちらこそ、よろしくね!」


差し出された右手に躊躇いつつも、同様に右手を差し出す。


この目の前の人が整いすぎているからなのだろうか?色素の薄い瞳と視線が交わると、どこか逃げ出したくなる衝動が湧いてくる。


そんな衝動をどうにか押し込めて、王子様が隣の席に座り、その周りに女子の壁が出来るその最後まで、笑顔を貼り付けたまま演じ切った。


二組文化祭実行委員、水上晴。

隣のクラスの王子様。
その情報を覚えていて良かった。
一組の隣は二組しかないから。


咄嗟に横目で紙を確認して名前を答えられたから良かった。
あの一秒の間を作ってしまったことは減点ではあるものの、充分やりきったと言える。


なにはともあれ、実行委員が被ってしまったが、だから接する機会が増えるとか距離が縮まるとか、そんなことはない。


文化祭実行委員とは、委員会で伝えられたものをクラスに広めたり、クラス内をまとめるリーダーを務めたり。他クラスと団結して何かをするようなことはないのだ。


王子様からの接触があったからこそ驚いたものの、これからは関わることは無いからそう身構える必要も無いだろう。


「……平和って最高」


穏やかなひとときに小さな独り言が零れ落ちたのだった。