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石畳の段差で転んだシャルロットは、不幸なことに頭を打ち付けて記憶喪失になってしまったと城中大騒ぎになっていた。

ここ三日間、訳のわからない状態に対して私なりに理解したことをまとめよう。

私、笠原菜子は本の整理中に脚立から足を踏み外したことをきっかけ?に本の世界へ入ってしまった。しかもそれはいつも読んでいてどハマりしている小説、『ウィズラブ』の世界で、主人公である王女シャルロットに転生してしまったらしい。

いや、転生なのかはよくわからないけど、とにかくシャルロットの体を乗っ取ってしまった。
シャルロットの記憶は一切持ち合わせていない。持っているのは菜子の記憶のみだ。
ごめんよ、シャルロット。
よく分からないけど謝っておく。

ウィズラブは挿し絵のない活字のみの小説だ。
そのため、最初は話しかけられても誰が誰だかわからなかった。むしろウィズラブの世界だとわかったのは、この世界の雰囲気が私が想像していたものとよく似ていること、私がシャルロットと呼ばれていること、そして私をお姫様抱っこした人物の名前が“アズール”だったことだ。

これはウィズラブの世界に違いない!
そう結論付けた。