「あの……連さん……。お借りしたドレスですので」
「ん? 裾を踏む野暮はしないつもりだが」
「えっ……と、……その、そろそろお返ししようかと」

どうやら、羞恥に耐え兼ねているようだ。せっかく可愛いのに、残念だ。俺が解放すると、初子は足早に着替えに行ってしまった。
初子は、この後も撫子のドレス選定に付き合うという。お色直しを何回するのかわからないが、おそらく一日がかりの仕事になるだろう。悪いが仕事があるので、俺は先に自宅へ戻った。



帰宅し、昼食にパンをかじりながらノートパソコンを起動させる。
初子は、昼飯を食べられるだろうか。あの調子だと、すべて終わったあとに撫子と恭と三人で食べてくるだろう。可哀想に、昼食は夕方だ。

それにしても今日の初子は戸惑いしきりといった様子だった。
普通、女性はドレスなどを着たらテンションがあがるものではないのか? ウエディングドレスを着ると婚期が遅れると聞いたことがあるが、その点は初子には当てはまらないし、自分の結婚式のことを夢想したりはしないのだろうか。

いや、俺との結婚を想像できないのかもしれない。もしかすると俺はあまり好かれていないのか?
上司と部下としてひと月接していたときはいい雰囲気だった。今も仕事の面ではなんの不自由もない。
しかし、こうしてひとたび仕事の枠から外れた途端、初子の表情も態度も硬くなる。