「もったいないお言葉です」

そこまで苦痛な顔をされたら、これ以上褒めちゃいけない気すらしてくる。いや、ここは敢えて褒めるべきだろう。

「初子、ほら、こちらへおいで。お日様の当たるところでよく見せてくれ」

初子の手を取ると、彼女の身体がびきっと強張るのがわかった。構わず、手を引きフロアの中央に連れてくる。
吹き抜けになったホールは、写真撮影などにも使われるので、一般的な式場と似た作りだ。天井近くの窓から陽光が注ぎ、その下に連れ出す。
ウエディングドレスを着た初子は瑞々しく美しい。年齢は撫子のひとつ下だったはずだが、顔立ちはもっと幼く見える。
俺がお相手してきた女性たちとはまったく違う初子。俺たちの都合で妻になってくれた部下は、今も仕事だと思っているだろうか。

「ほら、くるっと回ってごらん」

右手を取り、そのままダンスの要領でくるんと回す。初子は硬い動きながら、俺にされるままにドレスの裾をひるがえして回った。

「うん、いいぞ。ダンスをしたことは?」
「小学校の授業で……」
「……なるほど」

吹き出しそうになってしまい堪えた。
当たり前か。一般的な生活をしていて、ダンスを学ぶ機会はないだろう。俺だって、子どもの頃指南を受けたのと、大人になって海外要人のパーティーに招かれるようになってからだものな。
俺はダンスの要領で初子を引き寄せ、腰を抱いた。このくらいいいだろう。

「いずれ機会もある。その時はダンスを教えるよ」