「スレンダーラインっていうタイプのドレスよ。初子さんに似合うでしょう」
「本当だ。初子さんは華奢だから似合うね。絵画に出てきそうだよ」

恭がすかさず褒める。ドアのあたりで立ち止まって困惑顔をしている初子を迎えに行った。

「申し訳ありません。私まで試着してしまい」

俺を見上げ、さらに困った顔をする初子。

「試着くらいいいに決まってるわ。初子さんと兄さんだって、ゆくゆくは式を挙げるんだろうし」

撫子がドレスの裾をばさばさとさばいて寄ってくる。

「ほら、兄さん見て。初子さん、神話の女神みたい。細身で、たおやかで」

撫子に言われ、もう一度まじまじと初子を見つめる。普段、スーツ姿しか見ていない初子のドレス姿だ。男としては、ついつい普段見えない胸元や肩に視線がいってしまう。

「初子、すまないな。撫子に付き合わせて」

居心地悪そうにしている初子にまずは謝った。初子は慌てて首を振った。

「いえ、撫子さんは私が退屈だろうとお気遣いくださったんです」
「どうせ、自分には似合わないけど、興味のあるドレスを初子に着せて、着せ替え人形にしたんだろう」
「あら、女の子は着せ替え人形も、自分が着せ替え人形になるのも、大好きなのよ。まずは初子さんにかける言葉があるのではなくて?」

だから、俺は言おうと思っているのに、おまえが口を挟んでくるんだろうが。俺は近づいてきた恭に撫子を押し付け、あらためて初子に向き直る。

「初子、綺麗だよ。ドレス姿を見たら、やはり式を早く挙げたくなってきたな」

夫として着飾った格好の妻を褒めるのは当然と思って口にした。
しかし、初子は困惑しきった渋面。そんな顔するなよ。