恭がふっと笑った。

「それなら、早く結婚を公けのことにしないと。対外的に既婚者となれば、おまえも断る名目ができるだろう。このまま、既婚を隠して女性と会っていれば、初子さんを悲しませるぞ」
「来月の会議で報告するよ。女性との食事の約束はまだいくつかあるんだが、仕事上のものだし、初子も了承している。新規募集はしないし、ベッドのおともは金輪際遠慮するよ」
「なによりだ」

するとホール奧のドアが開く。姿を見せたのはウエディングドレス姿の撫子だ。

「恭!見て!」

実の兄のことなど視界にも入れず、未来の夫の元へずんずんやってくる撫子。プリンセスラインと呼ばれる傘状のスカートが、撫子が歩くたびにふわんふわんと揺れる。背中まで丸見えだが、本人はこのドレスのためにエステだトレーニングだと頑張っているのだから、兄としては許容してやらねばならない。
なお、今回の試着でデザインを決めたら、そこからさらに細々した注文をつけてオーダーメイドするそうだ。

「二十七にもなってはしゃぐな、撫子」

俺は少女のような撫子に一応声をかける。兄もいるんだぞ、というアピールもこめて。

「兄さん、うるさいわ。恭、どうかしら? ちょっと子どもっぽい?」

兄の扱いが雑じゃないか? 撫子は恭の前でドレスをつまんで見せたり、胸元を直したり忙しい。恭はにっこり笑顔だ。