恭はいつも俺より上だ。俺が必死になってやっとできることを、いとも簡単にこなしてしまう。いつだって、俺は二番目。
恭は俺よりよほど上手く文治を発展させるだろう。そして、撫子の夫になり文護院の一族入りをする恭を、後継者に擁立しようとする一派も存在している。
俺が頭取の座を継ごうと思っているのは、行内の内紛を起こしたくないのと、親同然で育ててくれた叔父への恩返しだ。叔父が望むから、頭取になろうと思っているだけ。
本当は恭の方が……。

「連」

呼ばれてはっとする。慌てて恭を見ると、親友が俺の顔を覗き込んでいる。

「どうした? 考え事か?」
「いや……撫子の式について考えていた」
「はは、八月だ。忘れるなよ」

恭は頼りがいのある笑顔だ。
この笑顔の親友にいつも励まされ、劣等感を覚えてきたなんて言えない。

「もう連も妻帯者だな。結婚前も言ったが、遊びは控えろよ」
「もとより遊んでいるつもりはないと言っているぞ。女性と会うのは社交のひとつ、礼儀でマナーさ」

俺は笑って答える。

「ベッドの中までお邪魔するのもマナーか?」
「まあね」

あくまで仕事の延長で女性たちとは会ってきた。誘いは断らないが、自分から誘うことはしていない。

だから、先日初子を誘ったときは久しぶりに自分からアプローチをした。うまくいかなかったのを、微妙に気にしていたりする。絶対に言わないが。