母親の謝罪と今の生活の報告を聞く間、初子はじっと黙り、相槌も打たなかった。人形のように押し黙り硬直する初子。俺はふたりに対して助け船を出そうか悩んだ。引き合わせたのは俺だ。

「初子の姿を見られてよかった」

十分にも満たない一方的な語りの後、柴又好江が言った。彼女もまた、初子の様子にこれ以上はいけないと思ったのだろう。初子を傷つけていると。

「結婚おめでとうね、幸せに」
「私は……」

初子が初めて口を開いた。長らく黙っていたせいか初子の声はかすれていた。

「あなたをもう母親とは思っていません。許すことはできないし、父にも妹にもこれ以上関わってほしくない。お金の件は美雪がやりとりを引き受けるそうですが、それきりにしてください」

低い声に怒りはなかった。ただただ静かだった。

「連さんにも文治銀行にも関わらないでください。私もあなたのご家族に関わることはありません。こちらから連絡することは絶対にありません」
「ええ……わかったわ」

柴又好江は何度も小さく頷いた。初子の態度に傷ついているだろうが、傷ついたと表明することも彼女にはできないだろう。

「もうお会いすることもないでしょう」

初子は言い切り、それからやっと母親の顔を真っ直ぐに見据えた。