「あの子たちが小学生の時分、私は文治銀行からお金を盗んで駆け落ちしました。その金額を、夫が弁済して示談にしたことを聞いたのはずっと後で、その頃には私も駆け落ち相手と別れていました」
「今、お住まいは」
「北関東の……。男と別れてから、工場で働いて、そこで知り合った男性と結婚しました。今、十歳になる娘がいます」

俺は嘆息する。

「話を戻しますが、初子にどんなお話があって、お越しになったんですか?」

彼女の目をじっと見る。真意を探るように。

「俺は初子を大事に想っています。彼女が傷つくようなことなら、あなたを近づかせるわけにはいかない」
「……ひと目」

柴又好江はうつむき、吐き出すように言った。

「ひと目、姿が見たかった。謝りたかったんです」

それは完全なる自己満足だろう。十数年前に裏切った家族に謝りたい。罪悪感を薄めたい。自分に余裕ができ、ようやく思いいたったというところだろうか。浅はかで、自己中心的だ。

「美雪に会った時、あの子はひどく怒っていて、……私の顔も覚えていないからもう会いにくるなと」
「だから、顔を覚えていそうな初子に会いにきたのですか? その分、彼女の憎しみは深いですよ」

俺は歯に衣着せずに言った。
淡い期待は、午前中の再会で打ち砕かれているはずだ。