午後、俺は外出の合間を縫って、初子の母親と待ち合わせた。東京駅の近くのホテルのラウンジだ。念のため、文治銀行とは逆方向にしておいた。

「遅くなりまして、すみません」

初子の母親は先に来て待っていた。

「文護院連です。本店営業部支店長をしております。お聞き及びのことかと思いますが、五月に初子さんと入籍しました」
「あ、柴又好江と申します。初子の……母です」

お義母さんと、呼ぶのは初子の心情的にどうだろう。名前で呼んだ方がよさそうだ。

「柴又さん、初子にお話があるのですね。彼女は、あなたにあまりいい印象がないようなんです。できたら、そっとしておいてほしい」
「当然だと思います。あの子……家族を捨てて逃げたのは私ですから」

柴又好江はうつむいている。
放っておいてはほしいが、彼女には言いたいことがあって、初子のもとへ来たのだろう。

「美雪さんのところへ行ったと聞きましたが」
「はい。美雪と……。お金の話をしてきました」

おや、と思った。初子の言葉が蘇る。母親は金の無心をしにきたに違いないと、初子は言っていた。やはりそういう事情だろうか。
しかし、彼女の身なりは地味だが、金銭的に困窮している様子は見えない。