「連さん、駄目です。会う必要はありません」
「初子は会わなくてもいい。俺が初子と会えない旨を伝えてくる。初子の御母堂は、俺の義母だ」
「もう縁を切った人間です。あなたには会わせたくない」


初子の口調はいつになくきつい。

「どうせ、金の無心でしょう。泥棒なんですから」
「いくら、嫌な感情があっても、想像で人を貶めてはいけないぞ。待っていなさい」

俺が出て行こうとすると、初子がはしっと袖を掴んだ。

「私が話します。……連さんは」
「では、隣にいるよ」

初子は渋々といった様子で頷いた。初子の表情はいつになく余裕のないもので、痛々しいほどだ。

第二応接に通したと聞いていたので、ふたりで二階に下りる。

「お待たせしました」

俺はわざと明るく言いながら、ドアを開けた。初子も一緒に入る。
ソファに座っていた中年の女性が立ち上がり、振り向いた。

ひと目でわかった。間違いない、初子の母親だ。
全体の造作がよく似ている。初子の方が少々丸顔で童顔に見えるので、輪郭や骨格は違うのだろう。それにしてもよく似ていた。

「初子」

彼女の口から娘の名がこぼれる。表情が泣き出しそうに歪む。