妹とは仲がいいようで、たまに通話しているのは知っているが、普段は休日や平日の夜だ。平日の昼間にかけてくることはめずらしい。

「急用だとまずい。出たらどうだ」
「はい、ありがとうございます」

電話に出た初子はしばらく相槌を打っていた。その表情がさっと強張る。何かあったのだろうか。
通話を終えた初子は青い顔をしている。

「初子、どうした?」
「いえ、たいしたことでは」
「その顔色で言うことか? それとも俺には聞かれたくないことか?」

夫婦とはいえ、プライバシーもある。気になるが、無理強いはできない。初子は数瞬黙り、心を決めたのか口を開いた。

「母が……妹を訪ねてきたそうです」

初子の母。初子が小学生のときに、文治銀行から金を横領して逃げたという。

「私にも会いたいと……」

初子は困惑したように言い、それからうつむいた。

会ってやればいい。そう言いかけてやめた。
初子に凄まじい感情の渦が見えた。その大半が怒りであることを、俺は理解しているつもりだ。

「初子が決めるといい」

俺はそう言うことしかできなかった。