「連さん、今夜は榮西グループの」
「ああ、CEOと食事だ。夕飯は作らなくていいぞ」

言葉を切って、初子を見つめた。視線で気付いてほしい。俺がどうしたいか。

「なるべく早く帰るから」
「……会食もお仕事ですよ」

初子は俺の言わんとしていることがわかるようで、困った顔で目を伏せた。恥じらいの滲む表情がまた可愛い。

「いいんだ。あちらも愛妻家で有名だ。長くお引き留めすることはできない」

初子が口の中で小さく「もう」と呟くのが見え、その頬が赤くなる。
仕事中なのに、そんな顔をされたら抱き締めたくなってしまう。ぐっとこらえたところで、初子のスマホがデスクの上で振動していることに気づいた。

「なんでしょう、妹です」

初子が液晶を見つめて言う。