「最初は恋じゃなくても、一緒にいるうちに恋に落ちるなんて、普通のことなのにな。むしろ、その方が信頼できるじゃないか。お互いのいろんな面を見ながら、気持ちが寄り添っていくんだから」
「それは連の実体験か?」

恭に訊ねられ、気恥ずかしいような心地ではあったが頷いた。

「初子に夢中になってしまってね。恋とは恐ろしいよ。あんな始まり方だったのに、今じゃ初子のことばかり考えている。俺は三十二年生きてきて、真っ当に恋をしてこなかったんだなあと痛感している」
「女性が絶えなかったプレイボーイの言葉とは思えないな」
「だから、何度も言うが、俺から誘ったことはないぞ」

そこで俺たちはまた笑った。
恭の正直な告白に撫子がショックを受けたとして、きっと冷静に考えればわかることなのだ。どんな始まりでも大事なのは今。恭が撫子を愛し、ともにいたいと願うことこそが未来に繋がる愛情だ。

「面倒な妹ですまないが、あらためて好きだと伝えてやってくれ。あいつは、恭が叔父の命令で自分と結婚したのだと思ってるんだろう。まったく、十年も付き合って何を今更と言う感じだな」
「マリッジブルーもあったのかもしれない。俺も言うタイミングが悪かった。撫子とこれからも一緒にいたいと伝えるよ」

明日の日中に撫子を迎えにいくと言う恭と別れ、俺は帰路についた。

初子と俺も、普通に生きていたら出会わなかった。
様々な事情や思惑が絡み合って、俺と初子の縁が繋がった。今はそれに感謝したい。