『梢くん、頼むよ。きみにまかせたくてここまで口説きに来たんだ』

頭取が頭を下げ、私は慌てた。トップに頭を下げさせてはいけない。なにより、文護院頭取はかけがえのない恩人だ。
そこで気づく。頭取もわかっているのではなかろうか。私たち父子が、絶対に断れないだろうと、私を抜擢したのだとしたら。
……それだけ、文護院連の補佐役は誰もやりたがらないということだろうか。そんな人の下に?

『頭取、お受けします』

迷う心を殺し、私は答えた。そうだ。頭取の思惑は別として、請われて拒絶することなどない。あってはならない。

『私たち親子を救ってくれた御恩、今お返しさせてください。文護院頭取と越野支店長には、一生かかっても返しきれないほどの御厚情を賜っているのですから』
『そんなことは気にしなくていい。あの件で不当な扱いを受ける理由は、あの時もこれからもない。きみもお父さんも、文治に必要な人間なんだ。本店営業部で、私や甥の力になってくれるかい?』

熱心な言葉だった。いち行員が頭取に直接請われるのはありがたいこと。私はあらためて頷き、頭を下げた。

『謹んでお受けいたします』
『ありがとう、梢くん』

頭取が私の手を取った。