「楽しくていい人たちですね」
「……そうだな」
 先ほどまで騒がしかった部屋も今は静寂が戻った。色々起きた旅だが、終わってしまえば悪くなかったと思えるのは、あいつらが何かと賑やかだったというのもあるだろう。
「……アルフレートの言う通り、兄さんは兄さんの心のままに、進んでいいんですよ。
 呪いを解くためにずっと尽くしてきたんですから」
「それはお前もだろ」
「私は、兄さんの背中を追いかけたかっただけなんです。
 兄さんみたいになんでもできるようになりたかったから、その真似をしたかった」
「俺は別に、なんでもできるわけじゃないぞ」
「でも、私にはそうなんです」
「……兄としては、弟に情けないところは見せられないだろ」
 そう言うと、バルトは嬉しそうに微笑んだ。つまらない年長者の意地だが、そんな風に眩しく見られるのは面映ゆいところがある。
「ユウキさんの世界に行くのでもいいし、この世界を旅するのでもいいし、他のなんでも……私も、兄さんには幸せになってもらいたいんです。兄さんの意志で村に帰るというなら、もちろんそれでもいい。それとも……私に後を任せるのは頼りないでしょうか」
「そんなわけないだろ!」
 思わず声が大きくなってしまって、バルトは目をぱちぱちとさせた。
「お前は素直で人の気持ちを汲めるやつだし、肝心なところで取捨選択がしっかりできる。魔法も星詠みも得意だ。人の上に立つのは俺よりずっと向いていると、思っている」
「……そんな風に思っていてくれたんですね」
 顔をほころばせるバルトは嬉しそうで、長い間一緒に旅をしてきたのに、こんな風にちゃんと話したことがなかったと反省した。俺の知らないところで……いや、知ろうとしなかったところで、悩んだり心配させたことがたくさんありそうだ。元より俺は父上を助けたいと思って旅に出ただけだし、長い間離れすぎていて正直なところ村についてはどうしたらいいかわからない。それに今の俺は、村のことを一番には考えられない。
「会いたいんですよね、ユウキさんに」
「……ああ。たとえ話せなくても、一目姿が見たい。……意気地がないだろ?」
 もしこれからのユウキに俺が必要ないのだとしても、せめてその顔だけでも見たい。少しだけ弱音を口にすると、バルトはにっこりと笑った。何故かとても楽しそうだ。
「ユウキさんに出会ってから、兄さんの人間らしいところがたくさん発見できて私はとても嬉しいです」
「お前、実は結構いい性格してるよな……」
 今はそれなりに自覚しているつもりだが、思いのほか感情を外に見せていたのだと思うと気恥ずかしい。これは間違いなくユウキのせいだ。レオンハルトに指摘されるどころか、歳の離れたアルフレートにまで発破をかけられる始末だから本当に不甲斐ない。
「明日、神殿に行ってみる。戻って来なかったら、父上に母上……他の皆によろしくな。
 そうだ、あとはスピカだな。スピカには約束を守れなくて悪いって伝えてくれ」
「……わかりました。でも儀式には立ち会いますよ。今さら置いていかないでください」
「……ああ。ありがとう、バルト」
 しっかりと俺の目を見てバルトは頷く。まずは、光の神に会えるか試してみなければ。