借りていた空き家に戻ると瑠果ちゃんも起き上がっていた。もう大丈夫ということで、明日には中央に向けて出発することにした。予定も決まったので、皆に話したいことがあると集まってもらう。二人で喋るとごちゃごちゃするので主に話すのは瑠果ちゃんだ。
「これからのことで、皆に知っておいてほしいことがあって」
「……どうしたんだ、ルカ、ユウキ」
 私たちの様子がいつもと違うと感じたのか、レオンハルトも真剣な顔になる。
「中央神殿で、闇の神と戦うことになるかもしれないんだ」
「……闇の神……光の神と相剋の?」
「二人はどうしてそれが、わかるんだ?」
 突然の話に皆困惑した表情だ。信じられないかもしれないけど、と前置きして、慎重に話を進める。
 私たちの世界に、この世界と良く似た物語が存在していること。その物語では、『神の御使い』が浄化のアクセサリーを奉納すると、闇の神が復活すること。一度に全部は混乱すると思うので、まずはそこからだ。
「そちらの世界の物語に似ている、というのは……?」
 こんなことを急に言われてもよく意味がわからないだろう。今まで過ごしてきた私たちは、ここがゲームの世界等ではなく、やはりただ『ユメヒカ』に似ている……もしくは『ユメヒカ』の方がこの世界に似ている物語なのだと思っている。
「端的にいうと、この場にいる皆が『神の御使い』と一緒に世界を浄化して、最後は復活した闇の神を退ける物語なんだ。ちょっと説明が難しいんだけど……世界や人物以外は違っているところが多くて。似たようなことは起きているんだけど……」
「予言書、みたいなもの?」
「そう思ってもらうのが、一番わかりやすいかも」
 アルフレートが言い得て妙な表現をしてくれた。わかりやすいので、今後は予言書と呼ぶことにした。
「予言書も、途中は何通りも枝分かれがあるけど……最後はどれも、中央神殿で闇の神と戦うことになっているの」
「……必ずその通りになるのか?」
 テオドールの問いに、瑠果ちゃんは首を横に振る。
「わからない。だけど、その可能性も知っておいて欲しくて。
 予言書に登場する皆に伝えると、なにかこの世界へ影響があるかもしれないと思って、今まで言えなかったの。黙っていてごめんなさい」
 願い事はどうなるの、とアルフレートが呟いた。予言書では闇の神を倒すと光の神が叶えてくれることになっていて、その通りなら叶えてもらえるのは三つ。アルフレートとテオドールたちの願いを叶えるつもりだ。闇の神は神官ニコラウスの体を使って顕現するから、三つ目は彼を助けるのに使わせてほしい。そう説明した。
「ただ……私たちの知っている物語とは大分違っているんだ。絶対に叶えてもらえるという保証はないから、それは申し訳ないんだけど……」
 それぞれの中で噛み砕いているのか、少しの間皆口をつぐんでいた。もう少しで願いが叶うと思っていたのに、青天の霹靂だろう。
「俺ははじめからこの世界を平和にすることが目的だから、やることは変わらないな。闇の神を倒す必要があるなら、そうする」
 静寂を破って、レオンハルトはそう断言して笑った。
「そうだな。少しでも願いの叶う可能性があるなら、俺たちはそれにかける」
「ええ、心構えができるのでありがたいです」
 続けてテオドールとバルトルトも同意する。少しうつむいていたアルフレートも、肩の上のクリスが尻尾でもふんと頬を叩くと、頷いた。
「願いが叶えば嬉しいけど……それより、ルカとユウキがちゃんと、もとの世界に帰れるようにするから。」
 皆で顔を見合せ、そして頷いた。もし闇の神と対峙しても一緒に戦ってくれるようで胸を撫で下ろした。
「なにか対策とか、覚えておいた方がいいことはあるか?」
 レオンハルトの早速の質問に、ラスボスバトルを思い起こす。ゲーム内の戦闘はターン制だったけれど、私はパーティのレベルを上げすぎていたのもあって、ラストバトルは危なげなく勝ってしまっていた。しかもオート戦闘も合ったので、周回時はもっぱらオートにしていて、正直なところそこまで記憶していない。戦って闇の神の体力を削って、浄化で力の源である穢れを減らす。簡潔にまとめるとそういうことになってしまう。浄化のアクセサリーは闇の神の力を集めるものだったから奉納後は機能しなくなるので、穢れを祓うと世界の力として戻っていくんだよね。
「えっと……穢れを撒いてくるのと……」
「精神攻撃が、合ったよね?」
「数ターン行動不能になるやつ、かな?」
「そうそれ!」
「あとは闇の炎を出してくるのとか……」
 他には何があったか……瑠果ちゃんと二人で頭を捻っているけれど、ちゃんと思い出すには少し時間が必要かもしれない。神殿に行くまででいいから、まとめて共有できるようにすることになった。

 ずっと隠していたことを告白したので、少しは気持ちが軽くなるかと思ったけれど、そうでもなかった。皆との話が終わったあと、テオドールが何か言いたげな視線を向けていたことに気づいていたけれど、今は顔がまっすぐ見られそうになかった。