ほどなくして、鳥退治が終わった皆が私たちを崖上へ──具体的に言うと、アルフレートの魔法で蔦をロープのようにして引き上げてくれた。アルフレートぐらい的確に素早く魔法が使えるなら色々できるのにな。
瑠果ちゃんがテオドールと、私にも治癒をかけてくれる。腕の傷はすっかりふさがったようで安心した。それでも失った血までは戻らないから、テオドールは少しの間戦闘や夜の番に加わらず大人しくしているよう厳命された。
今日も湖畔で野営だけど、色々な準備は置いて馬車の番をするようにと言われていた。体が鈍りそうだなと、呟いてつまらなさそうに御者台に座っている。私はというと、バルトルトと火起こしをしていたけど、終わったので早くも手持ち無沙汰だ。
……そういえば、浄化のアクセサリー。がっしりとした鎖を持って宝玉を覗き込む。
物語では宝玉いっぱいに穢れをためたら中央神殿にいくってなっていたけれど、ここでは詳しくは言ってなかったよね。今現在どれくらいの穢れが納められているかはゲームのようにはわからない。私はシナリオ外のフリー戦闘をたくさんしてわりと早くにゲージいっぱいになってしまっていたよな……
最低限世界を一周すれば必須イベントだけでクリアはできたから、その通りならば、瑠果ちゃんと私の集めた二人分があればたぶん、闇の神復活分は大丈夫だとは……思う。ちゃんと闇の神が出てくるのか?ということはまあ、今のところは考えない。宝玉は最初に比べて心なしか昏く淀んだ色になった気がする。瑠果ちゃんもそうなのかな。じゃらじゃらとネックレスの鎖をいじっていると、テオドールが思い出したように聞いた。
「そういえば、願い事は決めているのか」
「願い事?」
「三つ、叶えられるんだろ?」
願い事……最終的に三つだけだろうと思っていたから、当然ながら何も考えてはいなかった。お役目が終わったらもとの世界には帰してもらえる……はずだし。
そもそも、今までの『神の御使い』もちゃんと叶えてもらったんだろうか。物語ではその辺は昔話としてふんわりとしか語られていないけれど、光の神はラスボス闇の神を倒さないと出てこない。今までの願いを叶えていたのは闇の神で、表面的に叶ったように見えただけで本当の意味では叶っていないのでは?と、個人的には考察していた。
もし元の世界で叶えた願いの影響があるなら、何かしらもっと不思議な事件が起きている気がする。この世界限定でしか願いの効力がない、とかもあり得るかな。いや、そうなるとゲームでの自分の世界へ来てくれるエンドはどうなのって話になるけど……『神の御使い』は全て違う世界線からの召喚、とかならわからない。
もし、万が一、他にも願いが叶えられるなら。私は何を叶えたい?今ならなにを願う?
「皆の健康とか、できれば大きな怪我をしないように……みたいなのは具体的じゃないからだめかなぁ」
「私たちのことを、願うんですか?」
バルトルトが不思議そうな顔をしている。ここが『ユメヒカ』と同じではないのはもうわかっているけれど、やっぱりこうして一緒に旅をした皆は大好きだ。もちろん、スピカも。皆と、その大切なひとたちと……それぞれ、しっかり幸せになって欲しい。
「……お前自身の望みはないのか?」
「私の?」
うーん…………自分のか。
……例えば、いっそこの世界で起こった出来事の記憶を消してもらうとかは、考えたことがある。すでに一年近くこの世界で過ごして、自分の根幹に関わる部分に影響をかなり感じている。それに、色々あったけれど、やっぱり、楽しかったから。夢から醒めるように、この後自分本来の生活に戻れるかかなり不安だ。
でも、帰ったらずっとこの世界のことを思い返して反芻して、少しでも覚えているうちに脳内スチルを絵に落とし込んだりしたい。ああ、楽しい思い出だけ覚えていられるように、旅の記録ノートを持って帰るとかいいかもしれない。もしそれができるなら、皆に一筆……というか、それぞれの名前とか何か書いてもらいたい。本音は筆跡が欲しいだけなんだけど。もし持ち帰れなければ、あのノートは燃やしておくのが良いかもしれないな。大半日本語で書いてあるけれど、万が一この先召喚された『神の御使い』に読むことができたら……ある意味黒歴史ノートみたいなもの。さすがに見られたくない。いや、もしかして神殿の神官は読める可能性があるかも。やはり焼却処分が妥当か。
ノートが無理なら、あとはこの守り石とか。この石なら向こうの世界で存在していても違和感ないものだ。この複雑な彫り込み紋様はさすがに向こうで再現自作するのは骨が折れそうだし、ノートより良いかもしれない。
思いの外真剣に考えてしまった。あんまり深く考えると虚しくなってしまいそうだ。
「何か好きなものを持ち帰るとか、できたらいいな」
「そんなことでいいのか?」
「この旅を思い返すのに、やっぱり何か手元にあると嬉しいから」
「なるほど……」
そういえば、向こうではどのくらい時が経っているんだろう。もし同じく時間が経っているなら色々と面倒なので、せめてこちらに来たときと同じ時に戻して欲しい。
叶う見込みのない願いを望んでも意味がないと思うけれど、心の中でそっと光の神に祈っておいた。どうか、この旅が終わるまでも、終わってからも、皆が大きな怪我もせず、幸せでありますように。
瑠果ちゃんがテオドールと、私にも治癒をかけてくれる。腕の傷はすっかりふさがったようで安心した。それでも失った血までは戻らないから、テオドールは少しの間戦闘や夜の番に加わらず大人しくしているよう厳命された。
今日も湖畔で野営だけど、色々な準備は置いて馬車の番をするようにと言われていた。体が鈍りそうだなと、呟いてつまらなさそうに御者台に座っている。私はというと、バルトルトと火起こしをしていたけど、終わったので早くも手持ち無沙汰だ。
……そういえば、浄化のアクセサリー。がっしりとした鎖を持って宝玉を覗き込む。
物語では宝玉いっぱいに穢れをためたら中央神殿にいくってなっていたけれど、ここでは詳しくは言ってなかったよね。今現在どれくらいの穢れが納められているかはゲームのようにはわからない。私はシナリオ外のフリー戦闘をたくさんしてわりと早くにゲージいっぱいになってしまっていたよな……
最低限世界を一周すれば必須イベントだけでクリアはできたから、その通りならば、瑠果ちゃんと私の集めた二人分があればたぶん、闇の神復活分は大丈夫だとは……思う。ちゃんと闇の神が出てくるのか?ということはまあ、今のところは考えない。宝玉は最初に比べて心なしか昏く淀んだ色になった気がする。瑠果ちゃんもそうなのかな。じゃらじゃらとネックレスの鎖をいじっていると、テオドールが思い出したように聞いた。
「そういえば、願い事は決めているのか」
「願い事?」
「三つ、叶えられるんだろ?」
願い事……最終的に三つだけだろうと思っていたから、当然ながら何も考えてはいなかった。お役目が終わったらもとの世界には帰してもらえる……はずだし。
そもそも、今までの『神の御使い』もちゃんと叶えてもらったんだろうか。物語ではその辺は昔話としてふんわりとしか語られていないけれど、光の神はラスボス闇の神を倒さないと出てこない。今までの願いを叶えていたのは闇の神で、表面的に叶ったように見えただけで本当の意味では叶っていないのでは?と、個人的には考察していた。
もし元の世界で叶えた願いの影響があるなら、何かしらもっと不思議な事件が起きている気がする。この世界限定でしか願いの効力がない、とかもあり得るかな。いや、そうなるとゲームでの自分の世界へ来てくれるエンドはどうなのって話になるけど……『神の御使い』は全て違う世界線からの召喚、とかならわからない。
もし、万が一、他にも願いが叶えられるなら。私は何を叶えたい?今ならなにを願う?
「皆の健康とか、できれば大きな怪我をしないように……みたいなのは具体的じゃないからだめかなぁ」
「私たちのことを、願うんですか?」
バルトルトが不思議そうな顔をしている。ここが『ユメヒカ』と同じではないのはもうわかっているけれど、やっぱりこうして一緒に旅をした皆は大好きだ。もちろん、スピカも。皆と、その大切なひとたちと……それぞれ、しっかり幸せになって欲しい。
「……お前自身の望みはないのか?」
「私の?」
うーん…………自分のか。
……例えば、いっそこの世界で起こった出来事の記憶を消してもらうとかは、考えたことがある。すでに一年近くこの世界で過ごして、自分の根幹に関わる部分に影響をかなり感じている。それに、色々あったけれど、やっぱり、楽しかったから。夢から醒めるように、この後自分本来の生活に戻れるかかなり不安だ。
でも、帰ったらずっとこの世界のことを思い返して反芻して、少しでも覚えているうちに脳内スチルを絵に落とし込んだりしたい。ああ、楽しい思い出だけ覚えていられるように、旅の記録ノートを持って帰るとかいいかもしれない。もしそれができるなら、皆に一筆……というか、それぞれの名前とか何か書いてもらいたい。本音は筆跡が欲しいだけなんだけど。もし持ち帰れなければ、あのノートは燃やしておくのが良いかもしれないな。大半日本語で書いてあるけれど、万が一この先召喚された『神の御使い』に読むことができたら……ある意味黒歴史ノートみたいなもの。さすがに見られたくない。いや、もしかして神殿の神官は読める可能性があるかも。やはり焼却処分が妥当か。
ノートが無理なら、あとはこの守り石とか。この石なら向こうの世界で存在していても違和感ないものだ。この複雑な彫り込み紋様はさすがに向こうで再現自作するのは骨が折れそうだし、ノートより良いかもしれない。
思いの外真剣に考えてしまった。あんまり深く考えると虚しくなってしまいそうだ。
「何か好きなものを持ち帰るとか、できたらいいな」
「そんなことでいいのか?」
「この旅を思い返すのに、やっぱり何か手元にあると嬉しいから」
「なるほど……」
そういえば、向こうではどのくらい時が経っているんだろう。もし同じく時間が経っているなら色々と面倒なので、せめてこちらに来たときと同じ時に戻して欲しい。
叶う見込みのない願いを望んでも意味がないと思うけれど、心の中でそっと光の神に祈っておいた。どうか、この旅が終わるまでも、終わってからも、皆が大きな怪我もせず、幸せでありますように。