引き続き南に向かう道中、いずれ二手に別れた時のために、戦う手段を考えていた。自分ひとりで対応に当たることは無いだろうけど、何もできないよりいいだろう。
攻撃ではないけど、確実に出来そうなのは、光による目眩まし。これは有効利用するには仲間との連携が必須になる。今の私たちでできるかな……まずはテオドールとバルトルトに相談するところから……頑張ろう。
RPGの光属性の攻撃は、私の中では光線で焼き付くす系のようなイメージがあって、範囲や対象の制御が難しそうだ。難しそうと思ってしまっている時点で、きっと危険なのでやらない方が良いと思う。何かもっと狙いを定められるようなイメージができれば良いのだけど。
他に、回復について。この前瑠果ちゃんと手を繋いでいたら回復効果が高まった気がするので、二人で検証をしてみた。その結果、触れている方が回復の力が伝わりやすいのでは、ということがわかった。何というか、直接の接触によりお互いの魔力が流れやすいというか。触れることで効果が上がりやすいというのは確かに納得するところではある。痛い箇所をさすったりする感覚かな。
途中立ち寄った小さな村で、森の奥に穢れが留まっている木があるという情報を手に入れた。その木は村の人たちも特別なときにしか立ち入らない場所にあり、冬でも葉をたたえて生命力にあふれ、『精霊の宿り木』と呼ばれているらしい。
村の人曰く、ちょうど数日前にお供え物をしにいって初めて気がついたらしいので、穢れが発生してそんなに経っていないのかもしれない。私たちは村の人にお礼を言って、件の木を目指して進んだ。
「『精霊の宿り木』かあ……」
さくさくと落ち葉を踏みしめて歩くなか、隣の瑠果ちゃんが呟いた。私はすすすと瑠果ちゃんの近くに寄り、少し声を潜めつつ聞いた。
「瑠果ちゃんは、見える?」
「ううん、まだ見てない」
精霊は世界の魔力の素の数、この世界だと属性と同じ地水火風に光と闇の精霊がいる。物語本編には深く関わりがなかったのであまり詳しく書かれてはいないけれど、旅の途中でさりげなく道を示してくれたり、力を分けてくれる存在だ。
ゲームの世界では、神官や『神の御使い』は精霊が見えやすいという設定があった。ここがすべて『ユメヒカ』と同じではないかもしれないけど、『神の御使い』である私たちは──少なくともヒロイン役である瑠果ちゃんは、見える可能性が高そうだ。スチルではヒロインの回りに集まってキラキラ光る小さな妖精のような姿が描かれていた。宿り木の話を聞いてからずっと、精霊に会えるかもしれないとわくわくしていたのだ。
「わあ……!」
「すごく大きな木……」
しばらく歩いていると、突然開けた場所に出た。中央には大きな木が一本佇んでいる。大人数人が手を繋いでやっと届きそうな幹の太さだ。さっきまでこんなに大きな木は見えなかったと思うのに、突然目の前に現れたように感じた。不思議だ。
「特に魔物の類いは居なさそうだな」
「あの木、すごく力を感じる。」
辺りに脅威は無さそうだけど、念のため皆は私たちを囲むように陣形をとる。元の世界なら御神木と呼ばれそうに神秘的な雰囲気をまとったその木は、穢れの黒いもやがまとわりつき、葉が萎れてしまっている。急に風が吹き、ざわざわと葉が揺れた。
「精霊……! 悠希さん、精霊がいっぱい!」
「え?! どこ?」
瑠果ちゃんがざわめいた葉の辺りを指差して、少し高揚した声をあげる。じっとその方向を見るけれど、残念ながら何も見えなかった。
「私には見えないみたい……」
「そうなの?」
私はヒロイン役の瑠果ちゃんとはまた違うイレギュラーな存在だからなのかな。楽しみにしていただけに、ちょっと……いや、かなりしょんぼりだ。
「なんだか苦しそう……穢れのせいだね」
「早く浄化してあげよう!」
二人で手を繋ぎ、集中する。この木を、精霊を苦しめている穢れを光に融かすイメージで。木を囲むように光が現れ、穢れの黒いもやが包まれて消える。その光もまた、浄化のアクセサリーに吸い込まれていった。
倦怠感にぐらりと視界が揺れる。目眩を振り切ろうと頭を振ったら、そのままよろけて倒れそうになった。すると、がしりと、後ろにいた誰かが抱き止めて支えてくれる。
「大丈夫か」
「──あ、ありがとう」
その声と、力強さに覚えがある。そっと振り返ると、私を支えてくれたのはやっぱりテオドールだった。また助けてもらってしまった。
今度は何とか悲鳴は声に出さなかったぞ、私えらい。お礼も一応言えた。えらい。でも、脳内のパニックに合わせて、小さな魔力の光がぽんと飛び出ていった。ひえぇ……
ふいに優しく風が吹いて、またざわざわと木が揺れる。木は本来の姿を取り戻したようで、青々とした葉がまるでお礼を言うように揺れている。そして、木の周りを包むようにふわふわとやわらかな光が浮いていた。その中には、小さな可愛らしい人の形をした影が見える。
「精霊!」
私にも見えた!! 思わず興奮して声をあげる。小さな羽根が背中にあって、薄緑で半透明だ。ふわりと風をまとっているようにみえるし、風の精霊かな?
精霊たちは、私と瑠果ちゃんの周りをふよふよと飛び回った。……なんだか体が軽くなった気がする。少し力を分けてくれたのかもしれない。
「浄化のお礼かな?」
「そうかも」
他の皆にも光の玉はうっすらと見えるようだ。もしかしたら、意図的に姿を見せてくれたのかもしれない。精霊たちのお陰で、疲労感はあるけど何とか倒れずに戻ることができそうだ。
引き続き、南に向かって進んでいく。いつのまにかレオンハルトの故郷の街まであともう少しのところにきているらしい。これから二手に別れる準備もあるし、街には数日間滞在してしっかり休むことになっている。
いよいよ、瑠果ちゃんたちと分かれることになる。浄化のこととか魔物への対策とか不安がいっぱいだけど、私も、改めてしっかり覚悟を決めなければ。
攻撃ではないけど、確実に出来そうなのは、光による目眩まし。これは有効利用するには仲間との連携が必須になる。今の私たちでできるかな……まずはテオドールとバルトルトに相談するところから……頑張ろう。
RPGの光属性の攻撃は、私の中では光線で焼き付くす系のようなイメージがあって、範囲や対象の制御が難しそうだ。難しそうと思ってしまっている時点で、きっと危険なのでやらない方が良いと思う。何かもっと狙いを定められるようなイメージができれば良いのだけど。
他に、回復について。この前瑠果ちゃんと手を繋いでいたら回復効果が高まった気がするので、二人で検証をしてみた。その結果、触れている方が回復の力が伝わりやすいのでは、ということがわかった。何というか、直接の接触によりお互いの魔力が流れやすいというか。触れることで効果が上がりやすいというのは確かに納得するところではある。痛い箇所をさすったりする感覚かな。
途中立ち寄った小さな村で、森の奥に穢れが留まっている木があるという情報を手に入れた。その木は村の人たちも特別なときにしか立ち入らない場所にあり、冬でも葉をたたえて生命力にあふれ、『精霊の宿り木』と呼ばれているらしい。
村の人曰く、ちょうど数日前にお供え物をしにいって初めて気がついたらしいので、穢れが発生してそんなに経っていないのかもしれない。私たちは村の人にお礼を言って、件の木を目指して進んだ。
「『精霊の宿り木』かあ……」
さくさくと落ち葉を踏みしめて歩くなか、隣の瑠果ちゃんが呟いた。私はすすすと瑠果ちゃんの近くに寄り、少し声を潜めつつ聞いた。
「瑠果ちゃんは、見える?」
「ううん、まだ見てない」
精霊は世界の魔力の素の数、この世界だと属性と同じ地水火風に光と闇の精霊がいる。物語本編には深く関わりがなかったのであまり詳しく書かれてはいないけれど、旅の途中でさりげなく道を示してくれたり、力を分けてくれる存在だ。
ゲームの世界では、神官や『神の御使い』は精霊が見えやすいという設定があった。ここがすべて『ユメヒカ』と同じではないかもしれないけど、『神の御使い』である私たちは──少なくともヒロイン役である瑠果ちゃんは、見える可能性が高そうだ。スチルではヒロインの回りに集まってキラキラ光る小さな妖精のような姿が描かれていた。宿り木の話を聞いてからずっと、精霊に会えるかもしれないとわくわくしていたのだ。
「わあ……!」
「すごく大きな木……」
しばらく歩いていると、突然開けた場所に出た。中央には大きな木が一本佇んでいる。大人数人が手を繋いでやっと届きそうな幹の太さだ。さっきまでこんなに大きな木は見えなかったと思うのに、突然目の前に現れたように感じた。不思議だ。
「特に魔物の類いは居なさそうだな」
「あの木、すごく力を感じる。」
辺りに脅威は無さそうだけど、念のため皆は私たちを囲むように陣形をとる。元の世界なら御神木と呼ばれそうに神秘的な雰囲気をまとったその木は、穢れの黒いもやがまとわりつき、葉が萎れてしまっている。急に風が吹き、ざわざわと葉が揺れた。
「精霊……! 悠希さん、精霊がいっぱい!」
「え?! どこ?」
瑠果ちゃんがざわめいた葉の辺りを指差して、少し高揚した声をあげる。じっとその方向を見るけれど、残念ながら何も見えなかった。
「私には見えないみたい……」
「そうなの?」
私はヒロイン役の瑠果ちゃんとはまた違うイレギュラーな存在だからなのかな。楽しみにしていただけに、ちょっと……いや、かなりしょんぼりだ。
「なんだか苦しそう……穢れのせいだね」
「早く浄化してあげよう!」
二人で手を繋ぎ、集中する。この木を、精霊を苦しめている穢れを光に融かすイメージで。木を囲むように光が現れ、穢れの黒いもやが包まれて消える。その光もまた、浄化のアクセサリーに吸い込まれていった。
倦怠感にぐらりと視界が揺れる。目眩を振り切ろうと頭を振ったら、そのままよろけて倒れそうになった。すると、がしりと、後ろにいた誰かが抱き止めて支えてくれる。
「大丈夫か」
「──あ、ありがとう」
その声と、力強さに覚えがある。そっと振り返ると、私を支えてくれたのはやっぱりテオドールだった。また助けてもらってしまった。
今度は何とか悲鳴は声に出さなかったぞ、私えらい。お礼も一応言えた。えらい。でも、脳内のパニックに合わせて、小さな魔力の光がぽんと飛び出ていった。ひえぇ……
ふいに優しく風が吹いて、またざわざわと木が揺れる。木は本来の姿を取り戻したようで、青々とした葉がまるでお礼を言うように揺れている。そして、木の周りを包むようにふわふわとやわらかな光が浮いていた。その中には、小さな可愛らしい人の形をした影が見える。
「精霊!」
私にも見えた!! 思わず興奮して声をあげる。小さな羽根が背中にあって、薄緑で半透明だ。ふわりと風をまとっているようにみえるし、風の精霊かな?
精霊たちは、私と瑠果ちゃんの周りをふよふよと飛び回った。……なんだか体が軽くなった気がする。少し力を分けてくれたのかもしれない。
「浄化のお礼かな?」
「そうかも」
他の皆にも光の玉はうっすらと見えるようだ。もしかしたら、意図的に姿を見せてくれたのかもしれない。精霊たちのお陰で、疲労感はあるけど何とか倒れずに戻ることができそうだ。
引き続き、南に向かって進んでいく。いつのまにかレオンハルトの故郷の街まであともう少しのところにきているらしい。これから二手に別れる準備もあるし、街には数日間滞在してしっかり休むことになっている。
いよいよ、瑠果ちゃんたちと分かれることになる。浄化のこととか魔物への対策とか不安がいっぱいだけど、私も、改めてしっかり覚悟を決めなければ。