次の日、私たちは小さな村にたどり着いた。木造の平屋が並び広場や畑も見えるけれど、なんだかとても静かだ。人々は家に閉じ籠っているようで姿が見えず、村全体の空気も淀んでいるように感じる。
「穢れのもと……?が近いのかな」
「悠希さんもそう思う? あっちの方角から、気配を感じる……」
瑠果ちゃんの指差した方から、犬たちを見つけたときと同じようなぞわぞわした感覚を覚える。まずは村の人から話を聞くことができれば……と思っていると、犬たちが走り出し、一件の家の前で吠え出した。
「わんわん!」
「……その声は……!」
ばたん、と家の扉が開き、小さな女の子が飛び出してきた。
「……やっぱり! ねえ、皆帰ってきたよ!!」
女の子は興奮したように家の中へ叫ぶと、犬たちに抱きついた。彼らもしっぽをちぎれんばかりに振って喜んでいる。どうやら彼女が御主人様のようだ。
その家の人に話を聞いたところ、近くの水源に穢れが発生して留まってしまっているそうだ。穢れを浴びて凶暴化した獣が出たり、その水を口にして体調を崩している人も多いらしい。私たちはその穢れを祓いにいくことになった。
「水源は、この川を真っ直ぐ進んだ所です。
魔物もいるかもしれません、どうかお気をつけて……」
「わかりました。ありがとうございます」
教えてもらった方向に真っ直ぐ歩いていく。前にはレオンハルトとテオドール、私と瑠果ちゃんを挟んで、バルトルトとアルフレートという陣形だ。
「着いたな」
「穢れが広がっているみたいだ」
テオドールとレオンハルトの指示で、何か合った際に対応できるよう、すぐ後ろにいるように言われる。警戒しながら辺りの様子を確認した。
湧き水が池になっていて、そこから辿ってきた小さな川に流れ込んでいるようだ。黒いもやが池全体に漂っていて、少し濁って見える。
「! ルカ!」
ひゅん、と音がしたかと思うと、レオンハルトが瑠果ちゃんの前に出て何かを剣で弾き返した。
「レオンハルト、ありがとう」
「問題ない!」
早すぎてわからなかったけど、空から何かが飛んできたみたいだ。攻撃を受けているんだろうか? 心臓が早鐘のように打ち出す。
「空から狙われると厄介ですね」
「アル、風で結界できるか?」
「わかった。」
レオンハルトの言葉に、アルフレートが私たちの回りを半球状に囲むよう薄い風の膜を張る。再び上から降ってきた何かは、風に弾かれて飛んでいった。ひらひらとしたものが──鳥の羽根が落ちてくる。どうやら、穢れにあてられて凶暴化した鳥のようだ。くちばしの殺傷能力が高そう……絶対に当たりたくない。
「大きなものが来なければ、多分平気。」
ひとまず危険が減ったので少しほっとした。隣の瑠果ちゃんと目が合うと、安心させるように微笑んでくれる。先ほどのレオンハルトが鳥を弾き返したときも動じなかったし、なんというか……肝が据わってるな。
「穢れを先に祓った方がいいかもしれないな」
「そうですね。浄化してしまえば、これから魔物が生まれるのも阻止できますし」
テオドールとバルトルトの視線に応え、私と瑠果ちゃんは頷いた。瑠果ちゃんが手をとってくれる。落ち着くために深呼吸をしてみたら、思いの外肩に力が入っていたようだ。
「悠希さん、大丈夫?」
「うん!」
この前と同じように、穢れを祓うイメージを思い浮かべる。水源のもや……たくさんあるから掃除機みたいに吸えたら楽かな。水の中、濾過するように綺麗にできたら……
池全体を光が包むと、空にいた鳥達のものも含めて、黒いもやは一瞬で光に吸い込まれた。辺りの空気も淀みが消え、綺麗になったような気がする。黒いもやを吸い込んだ光は小さくなり、浄化のアクセサリーへと入っていった。
とたんに、ひどい倦怠感が全身を襲う。浄化の範囲が広かったからか、前回より強い。すぐに立っていられなくなりその場に膝をついた。
「おい、大丈夫か?」
「やっぱり負担が大きいのかも。」
周囲の音が小さくなり、抗えない眠気が襲ってくる。私はそのまま意識を失った。
目を覚ますと、木の天井が目に入る。あの村に戻ってきた……のかな? 首を横にやると、隣のベッドには同様に瑠果ちゃんが寝かされていた。体を起こして回復するように念を込めて瑠果ちゃんと自分に魔法をかける。ふわりと光が降り注ぎ、少し体が楽になった。
小さく息をつくと、扉がぎぃっと音を立ててそっと開いた。そこからひょこっと茶髪の女の子が顔を出す。
「良かった、お姉さん目が覚めたんだね!」
「あなたは確か……」
犬を飼っていた家の子だ。ということは、ここは彼女の家なのかな? 女の子はとても嬉しそうに頷いた。
「穢れをなくしてくれてありがとう。それに、あの子たちも……助けてくれてありがとう。もう二度と会えないと思っていたから本当に嬉しかったの」
確かに、私たちが南に向かっていなかったら犬たちに出会うこともなく、そのうちに誰かに退治されていたかもしれない。女の子の喜ぶ顔を見て良かったなと思いつつ、ゲーム中で倒していたモンスター達を思い返して少し複雑な気持ちになった。
ゲームの中ではフィールドで起きる戦闘のモンスターに、凶暴化した獣も穢れから発生した魔物も特に区別されていなかった。こんな風に誰かの家族だった動物もいたのかもしれない。あの犬たちみたいに運良く助けられるわけでもないけれど……もし助けられる動物がいるなら、助けたいなぁ。
結局体力回復に半日使い、そのあとは二人で村の人に治癒魔法をかけて回ったりした。たくさんのお礼を浴びつつ、再び南へ出発したのはそのまた次の日になった。
それにしても、穢れを祓うのにこんなに体力精神力を使うとは……毎回これだと、必然的に皆に迷惑をかけてしまう。ゲームでは倒れるなんてイベント発生の時しかなかったけど、これもやはり現実だから違いがあるということか。浄化のタイミングはしっかり考えなきゃいけないな。
「穢れのもと……?が近いのかな」
「悠希さんもそう思う? あっちの方角から、気配を感じる……」
瑠果ちゃんの指差した方から、犬たちを見つけたときと同じようなぞわぞわした感覚を覚える。まずは村の人から話を聞くことができれば……と思っていると、犬たちが走り出し、一件の家の前で吠え出した。
「わんわん!」
「……その声は……!」
ばたん、と家の扉が開き、小さな女の子が飛び出してきた。
「……やっぱり! ねえ、皆帰ってきたよ!!」
女の子は興奮したように家の中へ叫ぶと、犬たちに抱きついた。彼らもしっぽをちぎれんばかりに振って喜んでいる。どうやら彼女が御主人様のようだ。
その家の人に話を聞いたところ、近くの水源に穢れが発生して留まってしまっているそうだ。穢れを浴びて凶暴化した獣が出たり、その水を口にして体調を崩している人も多いらしい。私たちはその穢れを祓いにいくことになった。
「水源は、この川を真っ直ぐ進んだ所です。
魔物もいるかもしれません、どうかお気をつけて……」
「わかりました。ありがとうございます」
教えてもらった方向に真っ直ぐ歩いていく。前にはレオンハルトとテオドール、私と瑠果ちゃんを挟んで、バルトルトとアルフレートという陣形だ。
「着いたな」
「穢れが広がっているみたいだ」
テオドールとレオンハルトの指示で、何か合った際に対応できるよう、すぐ後ろにいるように言われる。警戒しながら辺りの様子を確認した。
湧き水が池になっていて、そこから辿ってきた小さな川に流れ込んでいるようだ。黒いもやが池全体に漂っていて、少し濁って見える。
「! ルカ!」
ひゅん、と音がしたかと思うと、レオンハルトが瑠果ちゃんの前に出て何かを剣で弾き返した。
「レオンハルト、ありがとう」
「問題ない!」
早すぎてわからなかったけど、空から何かが飛んできたみたいだ。攻撃を受けているんだろうか? 心臓が早鐘のように打ち出す。
「空から狙われると厄介ですね」
「アル、風で結界できるか?」
「わかった。」
レオンハルトの言葉に、アルフレートが私たちの回りを半球状に囲むよう薄い風の膜を張る。再び上から降ってきた何かは、風に弾かれて飛んでいった。ひらひらとしたものが──鳥の羽根が落ちてくる。どうやら、穢れにあてられて凶暴化した鳥のようだ。くちばしの殺傷能力が高そう……絶対に当たりたくない。
「大きなものが来なければ、多分平気。」
ひとまず危険が減ったので少しほっとした。隣の瑠果ちゃんと目が合うと、安心させるように微笑んでくれる。先ほどのレオンハルトが鳥を弾き返したときも動じなかったし、なんというか……肝が据わってるな。
「穢れを先に祓った方がいいかもしれないな」
「そうですね。浄化してしまえば、これから魔物が生まれるのも阻止できますし」
テオドールとバルトルトの視線に応え、私と瑠果ちゃんは頷いた。瑠果ちゃんが手をとってくれる。落ち着くために深呼吸をしてみたら、思いの外肩に力が入っていたようだ。
「悠希さん、大丈夫?」
「うん!」
この前と同じように、穢れを祓うイメージを思い浮かべる。水源のもや……たくさんあるから掃除機みたいに吸えたら楽かな。水の中、濾過するように綺麗にできたら……
池全体を光が包むと、空にいた鳥達のものも含めて、黒いもやは一瞬で光に吸い込まれた。辺りの空気も淀みが消え、綺麗になったような気がする。黒いもやを吸い込んだ光は小さくなり、浄化のアクセサリーへと入っていった。
とたんに、ひどい倦怠感が全身を襲う。浄化の範囲が広かったからか、前回より強い。すぐに立っていられなくなりその場に膝をついた。
「おい、大丈夫か?」
「やっぱり負担が大きいのかも。」
周囲の音が小さくなり、抗えない眠気が襲ってくる。私はそのまま意識を失った。
目を覚ますと、木の天井が目に入る。あの村に戻ってきた……のかな? 首を横にやると、隣のベッドには同様に瑠果ちゃんが寝かされていた。体を起こして回復するように念を込めて瑠果ちゃんと自分に魔法をかける。ふわりと光が降り注ぎ、少し体が楽になった。
小さく息をつくと、扉がぎぃっと音を立ててそっと開いた。そこからひょこっと茶髪の女の子が顔を出す。
「良かった、お姉さん目が覚めたんだね!」
「あなたは確か……」
犬を飼っていた家の子だ。ということは、ここは彼女の家なのかな? 女の子はとても嬉しそうに頷いた。
「穢れをなくしてくれてありがとう。それに、あの子たちも……助けてくれてありがとう。もう二度と会えないと思っていたから本当に嬉しかったの」
確かに、私たちが南に向かっていなかったら犬たちに出会うこともなく、そのうちに誰かに退治されていたかもしれない。女の子の喜ぶ顔を見て良かったなと思いつつ、ゲーム中で倒していたモンスター達を思い返して少し複雑な気持ちになった。
ゲームの中ではフィールドで起きる戦闘のモンスターに、凶暴化した獣も穢れから発生した魔物も特に区別されていなかった。こんな風に誰かの家族だった動物もいたのかもしれない。あの犬たちみたいに運良く助けられるわけでもないけれど……もし助けられる動物がいるなら、助けたいなぁ。
結局体力回復に半日使い、そのあとは二人で村の人に治癒魔法をかけて回ったりした。たくさんのお礼を浴びつつ、再び南へ出発したのはそのまた次の日になった。
それにしても、穢れを祓うのにこんなに体力精神力を使うとは……毎回これだと、必然的に皆に迷惑をかけてしまう。ゲームでは倒れるなんてイベント発生の時しかなかったけど、これもやはり現実だから違いがあるということか。浄化のタイミングはしっかり考えなきゃいけないな。