それからも旅すがら魔法の練習をして、中央神殿に着くまでには指先から光の玉を出して浮かすことができるようになった。
単純なように思える光の玉だけど、これがなかなか難しい。私の場合コントロールは感情の揺れにすぐ左右され、自分の思った通りの大きさや光量を保つにはとても神経を使う。しかも、制御に失敗すると離れてどこに飛んでいってしまうかわからない。いや、わからないというより、パーティーメンバーの誰かに……正確には、主にテオドールに、なのだけど。誰かの方向に飛んでいってしまうのだ。
基本感情や思考に左右されるということは、つまりは私がその人のことを考えてますよと言っているようなもので、、いや、皆からそう思われているかどうかはわからないけど、そう思われていないといいけど!! ただの光の玉なのでぶつかっても何か起きたりしないが、何度も飛んで来るのはうっとうしいことこの上ないだろう。
穢れの浄化もこの魔法を使う感覚と似ているらしいから、光の玉コントロールを毎日の基礎鍛練にしている。せっかくこの世界に来ることができたのだから、皆に迷惑をかけないようにしたい。
ちなみに、瑠果ちゃんにあの光があふれた時のイメージを詳しく説明してみると、同じように全員に魔法をかけることができた。何だかすごく元気が出て、活力が湧いてくる感じだ。周囲に影響を与えるヒロインの性質は、もしかしたらこういう魔法からきているのかもしれないな。
私たちはアインヴェルトのちょうどへそ部分に位置する、中央神殿にたどり着いていた。白く四角い石が整然と積まれたピラミッドのような外観になっていて、元の世界での太陽のピラミッドが一番イメージに近いかもしれない。きっとゲームでもそれを参考にして背景を描いたんだろう。
神殿の入り口で警備をしていた人に声をかけ、瑠果ちゃんと私が神殿に入る。会えるのは『神の御使い』だけ、と言われたので、私も首にかかったネックレスを見せて入れてもらうことができた。他の皆は神殿周囲の都市部で待機していることになった。
長い廊下を歩いて、応接室のような場所へ通される。先触れが行ったからか、中には既にニコラウスが待っていた。
「ニコラウスさん、こんにちわ。お久しぶり……というほどでもないですね」
「ようこそいらっしゃいました。ルカ様、そして新たな『神の御使い』様。このような姿のため、お迎えにあがれず申し訳ありません。
私は中央神殿神官、ニコラウスです」
プラチナブロンドの絹のように艶やかな長い髪を後ろに流して、雪のような白い肌とルビーのような赤い瞳。あまりに綺麗で、思わずほうとため息が出る。着ている神官服も白が基調となっているし、額や首もとの装飾がとても厳かな印象で、その神々しさがさらに増している。
ニコラウスはいわゆる色素欠乏症なので、神殿奥の光が当たらない場所で生活しているのだ。思わずじろじろと不躾に見とれてしまった。ハッとして私も挨拶する。
「はじめまして。藤本、悠希です」
「ユウキ様、ですね。
このアインヴェルトのため、異世界よりお呼び立てしてしまい大変申し訳ありません。
『神の御使い』として、どうかこの世界を浄めていただけないでしょうか?」
ゲームと同じく、自分で選択した体にするのは変わらないな。「いいえ」を選ぶと中央都市にずっと留まりバッドに分類されるエンドになってしまうから、元の世界に帰るためには穢れを祓う他選択肢はない。ここではどうなるんだろうとちょっと好奇心を刺激されるけれど、話をスムーズに進めるため私は瑠果ちゃんと事前に打合せしていた通りのことだけを話す予定だ。
「はい、そのつもりです」
「それは大変有難い。こちらの世界の問題に巻き込んでしまい、申し訳ありません。
……ところで、ユウキ様を召喚した者はどちらに……?」
そこは聞かれると思っていなかった。瑠果ちゃんは、気遣わしげにこちらの方を見た。私は頷いて、ニコラウスに召喚から今までのことを説明する。
「なんと……とても怖い思いをされたのですね。
『神の御使い』様にそんな無礼を働く者がいるとは……この世界の人間として、お詫びのしようも御座いません」
「いえ……! こうして助けてもらったので、問題ありません」
頭を下げるニコラウスに慌ててやめるようお願いする。助けてもらったのがヒロイン御一行だったのは、むしろ私には幸運な出来事なのだ。
改めて、今日ここに来た目的を果たさなければ。ひとつは、『神の御使い』である私を神殿に報告するため、あとは私と瑠果ちゃんが分かれて旅することについての確認だ。
「別々に旅をしても問題ないか……ですか?」
「はい、二手に分かれた方が早くこの世界を救えるのかな、と」
瑠果ちゃんの言葉に、ニコラウスはなるほど、と頷いた。
「『神の御使い』様方が大丈夫でしたら、お好きなように巡っていただいて問題ありません。そのために必要な支援はもちろん致しますし、お困り事がありましたら各地の神殿を頼っていただければと思います」
「ありがとうございます!」
ちなみにこの支援というのは路銀のことらしい。世界を旅していくのに、先立つものがないとどうにもならないもんね。
最後に、伝えたかったこと。二人で顔を見合わせて頷き、ニコラウスに言う。
「ニコラウスさん。あなたの今の願いは、きっと叶いません。
心からの……本当の願いが叶うように、私たち、頑張ります」
「だから、諦めないで欲しいんです。できる限り最後まで、抗ってください。私たちは、あなたのことを助けたいんです」
突然の私たちの言葉にニコラウスは困惑した表情を浮かべる。
「……何故……何を……?」
闇の神に蝕まれている彼の願いは、自分の意識を保ったまま自分として死ぬこと。でもそれは全てを諦めてしまっているからで、ニコラウスの個別ルートでは本当は死にたくないのだという願いを聞くことができる。
可能な限り早くアインヴェルトの穢れを祓って戻り、闇の神からニコラウスを解放する。三つ目の願いは、もしものときニコラウスを助けるためにとっておく。これが、瑠果ちゃんと私で話して決めたことだ。
ただ、それには本人の意志がなくては始まらない。なので今回会いに来たのには、ニコラウスに生きることを諦めないで欲しいと伝える目的もあった。絶対はないし、万一物語に影響が出ても困るので曖昧な表現になってしまったが、これでも十分意図は伝わるはずだと思う。
「………あなた方が、一体何をご存じでも……
どうかその行く先に、光の神の導きがありますように。」
別れの定型文でしめられたニコラウスの声は少し震えていたけれど、瞳の奥に、最初と違う光を感じた。
単純なように思える光の玉だけど、これがなかなか難しい。私の場合コントロールは感情の揺れにすぐ左右され、自分の思った通りの大きさや光量を保つにはとても神経を使う。しかも、制御に失敗すると離れてどこに飛んでいってしまうかわからない。いや、わからないというより、パーティーメンバーの誰かに……正確には、主にテオドールに、なのだけど。誰かの方向に飛んでいってしまうのだ。
基本感情や思考に左右されるということは、つまりは私がその人のことを考えてますよと言っているようなもので、、いや、皆からそう思われているかどうかはわからないけど、そう思われていないといいけど!! ただの光の玉なのでぶつかっても何か起きたりしないが、何度も飛んで来るのはうっとうしいことこの上ないだろう。
穢れの浄化もこの魔法を使う感覚と似ているらしいから、光の玉コントロールを毎日の基礎鍛練にしている。せっかくこの世界に来ることができたのだから、皆に迷惑をかけないようにしたい。
ちなみに、瑠果ちゃんにあの光があふれた時のイメージを詳しく説明してみると、同じように全員に魔法をかけることができた。何だかすごく元気が出て、活力が湧いてくる感じだ。周囲に影響を与えるヒロインの性質は、もしかしたらこういう魔法からきているのかもしれないな。
私たちはアインヴェルトのちょうどへそ部分に位置する、中央神殿にたどり着いていた。白く四角い石が整然と積まれたピラミッドのような外観になっていて、元の世界での太陽のピラミッドが一番イメージに近いかもしれない。きっとゲームでもそれを参考にして背景を描いたんだろう。
神殿の入り口で警備をしていた人に声をかけ、瑠果ちゃんと私が神殿に入る。会えるのは『神の御使い』だけ、と言われたので、私も首にかかったネックレスを見せて入れてもらうことができた。他の皆は神殿周囲の都市部で待機していることになった。
長い廊下を歩いて、応接室のような場所へ通される。先触れが行ったからか、中には既にニコラウスが待っていた。
「ニコラウスさん、こんにちわ。お久しぶり……というほどでもないですね」
「ようこそいらっしゃいました。ルカ様、そして新たな『神の御使い』様。このような姿のため、お迎えにあがれず申し訳ありません。
私は中央神殿神官、ニコラウスです」
プラチナブロンドの絹のように艶やかな長い髪を後ろに流して、雪のような白い肌とルビーのような赤い瞳。あまりに綺麗で、思わずほうとため息が出る。着ている神官服も白が基調となっているし、額や首もとの装飾がとても厳かな印象で、その神々しさがさらに増している。
ニコラウスはいわゆる色素欠乏症なので、神殿奥の光が当たらない場所で生活しているのだ。思わずじろじろと不躾に見とれてしまった。ハッとして私も挨拶する。
「はじめまして。藤本、悠希です」
「ユウキ様、ですね。
このアインヴェルトのため、異世界よりお呼び立てしてしまい大変申し訳ありません。
『神の御使い』として、どうかこの世界を浄めていただけないでしょうか?」
ゲームと同じく、自分で選択した体にするのは変わらないな。「いいえ」を選ぶと中央都市にずっと留まりバッドに分類されるエンドになってしまうから、元の世界に帰るためには穢れを祓う他選択肢はない。ここではどうなるんだろうとちょっと好奇心を刺激されるけれど、話をスムーズに進めるため私は瑠果ちゃんと事前に打合せしていた通りのことだけを話す予定だ。
「はい、そのつもりです」
「それは大変有難い。こちらの世界の問題に巻き込んでしまい、申し訳ありません。
……ところで、ユウキ様を召喚した者はどちらに……?」
そこは聞かれると思っていなかった。瑠果ちゃんは、気遣わしげにこちらの方を見た。私は頷いて、ニコラウスに召喚から今までのことを説明する。
「なんと……とても怖い思いをされたのですね。
『神の御使い』様にそんな無礼を働く者がいるとは……この世界の人間として、お詫びのしようも御座いません」
「いえ……! こうして助けてもらったので、問題ありません」
頭を下げるニコラウスに慌ててやめるようお願いする。助けてもらったのがヒロイン御一行だったのは、むしろ私には幸運な出来事なのだ。
改めて、今日ここに来た目的を果たさなければ。ひとつは、『神の御使い』である私を神殿に報告するため、あとは私と瑠果ちゃんが分かれて旅することについての確認だ。
「別々に旅をしても問題ないか……ですか?」
「はい、二手に分かれた方が早くこの世界を救えるのかな、と」
瑠果ちゃんの言葉に、ニコラウスはなるほど、と頷いた。
「『神の御使い』様方が大丈夫でしたら、お好きなように巡っていただいて問題ありません。そのために必要な支援はもちろん致しますし、お困り事がありましたら各地の神殿を頼っていただければと思います」
「ありがとうございます!」
ちなみにこの支援というのは路銀のことらしい。世界を旅していくのに、先立つものがないとどうにもならないもんね。
最後に、伝えたかったこと。二人で顔を見合わせて頷き、ニコラウスに言う。
「ニコラウスさん。あなたの今の願いは、きっと叶いません。
心からの……本当の願いが叶うように、私たち、頑張ります」
「だから、諦めないで欲しいんです。できる限り最後まで、抗ってください。私たちは、あなたのことを助けたいんです」
突然の私たちの言葉にニコラウスは困惑した表情を浮かべる。
「……何故……何を……?」
闇の神に蝕まれている彼の願いは、自分の意識を保ったまま自分として死ぬこと。でもそれは全てを諦めてしまっているからで、ニコラウスの個別ルートでは本当は死にたくないのだという願いを聞くことができる。
可能な限り早くアインヴェルトの穢れを祓って戻り、闇の神からニコラウスを解放する。三つ目の願いは、もしものときニコラウスを助けるためにとっておく。これが、瑠果ちゃんと私で話して決めたことだ。
ただ、それには本人の意志がなくては始まらない。なので今回会いに来たのには、ニコラウスに生きることを諦めないで欲しいと伝える目的もあった。絶対はないし、万一物語に影響が出ても困るので曖昧な表現になってしまったが、これでも十分意図は伝わるはずだと思う。
「………あなた方が、一体何をご存じでも……
どうかその行く先に、光の神の導きがありますように。」
別れの定型文でしめられたニコラウスの声は少し震えていたけれど、瞳の奥に、最初と違う光を感じた。