彩乃の様子がおかしいことは、他の生徒の口からも聞こえてきた。曰く、移動教室の場所を間違える、体育のバレーボールの練習でボールを顔にぶつける、階段を踏み外す、等々。挙句の果てには期末テストで上位十位にも入れなかった。燦々たるものである。

どれも注意力散漫で起こることだったから、岬は彩乃に再度質していた。

「彩乃さん。最近彩乃さんはぼんやりしすぎです。ボールを顔にぶつけるのはまだいい……、いや、良くないですけど、階段を踏み外すなんて、怪我でもしたらどうするんですか。それにテスト! 学年総代で入学しておいて、よくもまあトップ10を逃すなんてこと出来ましたね!? それで僕を執事だと呼べるんですか!?」

彩乃が順位を落としている間に、岬はトップに返り咲いた。でもそれは彩乃が本気の時だったら喜べたことだ。こんな腑抜けた彩乃相手では、喜ぶに喜べない。岬に言われるだけ言われて、彩乃はしゅんとなっている。

「ごめんなさい……」

「この前も、ごめんなさいと言って黙りましたね? 何かあるんですか? 怪我をしそうになったことは自覚してますよね? ことと次第によっては、ご両親にお伝えしなければなりません」

岬がそう言うと、彩乃は血相を変えて、そういうことじゃないの、と首を振った。そこまで不調の理由を自覚しておきながら、隠されなきゃいけない理由はなんだ。こういう時にこそ、横柄に、これ見よがしに主人然と、これこれこういう理由で困っているから何とかして頂戴、というものではないのか?