腰に手を当てて、彩乃を見下ろす。彩乃は暫く逡巡して、そしてやっぱり、なんでもないの、と俯いた。

(っがーーーーーーっ!! そうやってはぐらかすから、問題が解決されねーだろーーーー!! お前、俺に世話されたいんじゃなかったのか!!)

折角執事然として対処してやろうと思ったのに、気を削がれた。この件は、放っておくことにする。そう思った時に、彩乃が岬を呼んだ。

「岬くん」

「はい?」

条件反射のように返事を返す。すると彩乃は何か言いたそうにして……、結局言えなかった。

「……ごめんなさい。やっぱり何でもないわ……」

ムカっ。

今、岬の心情を表すのにこれほど適していて端的な言葉はない。そう、「ムカっ」としたのだ。岬を振り回す彩乃に。そして、彩乃に振り回されている自分に。

(お前なんか、もう知らねーからな!!)

二人は黙ったまま、並んで登校した。